90 楽しい白地図

2009.5


 先日社会科の先生が、今日これをやらせるんですと言って白地図のプリントを見せてくださった。世界地図に、川や山脈や砂漠などが描かれていて、その名前を下欄にずらりとならんだ固有名詞から選ぶというものだった。思わず、くださいと言って、やってみた。呆れるほどできなかった。

 まことに恥さらしの話だが、ガンジス川とインダス川が、どっちなのか分からなかった。どっちがチグリス川なのかユーフラテス川なのかも分からない。天山山脈、ゴビ砂漠、なんかもだいたいの位置は分かるのだが、正確には分からない。まして、カリマンタン島だの、エニセイ川だのとなると、もうどこの国の川なのかも分からない始末。これでは小学生以下ではないかと焦りつつ、とうとう地図帳と首っ引きで、全問解くのに1時間を費やしてしまった。それでもどうしても分からないものがあったが、とてもその先生に質問することはできなかった。

 その1時間、焦ったけれど、ああこれはレナ川というんだとか、ああアドリア海ってここだよななどと、初めて知ったり思い出したりということが、結構楽しかった。中学受験はぼくにとって地獄の日々だったが、確かこんなことを覚えたなあと懐かしくもあった。

 行ったこともない地名を覚えても意味がないと言う人もいるだろうし、地理で地名を覚えさせるなんてナンセンスだと言う先生もいるだろう。けれども、理屈はどうあれ、地名を覚えることは面白い。いや、面白いものだと、この白地図の問題をやりながら初めて思った。

 そう思ったら、もっと覚えたくなってしまって、白地図帳を買った。日本と世界の2冊。半分は問題集のようになっていて、たとえば「主な湖・海峡・水道・湾・島・半島」というページでは、いくつかが空欄になっていて、そこを埋めていくようになっている。「海流」の問題もあった。それをやっていて驚いたのだが、今まで「親潮」を間違って記憶していた。九州の西を通って日本海に向かうのが「親潮」だと思い込んでいたのだ。もちろんこれは「対馬海流」である。ああ恥ずかしいと思いながら、やっぱり楽しい。試験勉強じゃないから気楽である。

 それにしても、地図を眺めながら、これだけの地名がよくもあるものだと感嘆してしまう。世界地図には載っていない地名がどれくらいあるだろうかと思うと、気が遠くなるような気分になる。それを片っ端から覚えていくことが快感なのも当然という気もする。


Home | Index | Back | Next