81 かみのこと

2009.2


 学校というところは大量の紙を消費するところである。試験問題はいうまでもなく、教材のプリント、父母へのお知らせなど、それこそ月に何千枚、いや何万枚という紙が使われる。その印刷用紙を常に用意しておくのは、それこそ容易なことではない。印刷室の在庫がなくなりそうになると、それを学校の購買部の方へ注文しなければならない。注文するには常に印刷用紙の在庫を監視していなければならない。その監視や注文をする役目をここ数年ぼく一人でやっている。この歳になってどうしてこんな仕事をしなければならないのか理解に苦しむところだが、係なのだから仕方がない。

 紙の減り具合というのは一定の周期があるわけではなく、気がつくとほとんど在庫がないという事態がこれまでに何度もあった。それが試験前だったりすると、ひどく気をもむことになる。紙は注文した翌々日に届く。けれども気がついたのが土曜日だったりすると、早くても次週の水曜日にならないと届かない。こうなると学校中から紙をかき集めて急場をしのぐしかないことになる。こういう事態を避けるためにも、とにかくこまめにチェックしなければならない。とはいっても、ぼくは国語の授業もやりクラス担任でもあるわけで、紙の専属ではないから、どうしても「あ、チェック忘れた!」ということになる。ぼくの忘れっぽい性格上からいっても、そういう事態は年に必ず何度かあるのである。

 先日、購買部職員の女性のKさんが職員室にやってきて、「ヤマモト先生、かみは大丈夫ですか?」と聞いた。日頃ぼくがよく忘れるので、期末試験も近いことでもあり、心配になったのだろう。「あ、そうですね。今チェックしてきます。」と言って印刷室に行ってみると、まだ余裕はあったが、試験前なので注文した。

 さて、そのKさんが職員室を出て行ったあと、ぼくの後ろに座っていた年下の教師が、「ああ、びっくりした。」と言う。「何で?」「だって、入ってきて、いきなり、ヤマモト先生、カミは大丈夫ですか、ですよ。なんて失礼なことを言うのかと思って、もうびっくりしましたよ。」

 つまり彼は「髪は大丈夫ですか?」と聞いたのであった。「そんなこと言うわけないだろ。」「まあそうですけど。一瞬ほんとにびっくりしましたよ。すぐにああ紙のことかって分かったんですけど、おかしくって笑いをこらえるのが大変でしたよ!」だって。

 失礼なのはどう考えてみても彼である。


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