44 エスカレーターの不条理

2008.6


 最近また車通勤をやめて電車と徒歩で通勤するようになった。

 通勤路には坂道が多く、暑い季節は大汗をかくので気が重い反面、久しぶりの電車通勤は様々な人間観察もできるし、いろいろな電車にも乗れるので楽しい面も多々ある。いろいろな電車といっても、たかだか東海道線か横須賀線、それに市営地下鉄線にすぎないが、それでも最近は湘南新宿ラインが多く走っているので、様々な方面行きの電車が来ると「おっ」と思ったりして、結構これで鉄道好きなのである。

 それはそれでいいのだが、近ごろシャクに障るのが駅のエスカレーターである。

 市営地下鉄線の戸塚駅を降りて、JR線のホームに行くためにエスカレーターを使うのだが、これがどうにもひどい。

 エスカレーターに乗るマナーとして、急いでいる人のために右側をあけておくということが世の中に広まったのは、もう何十年の前のことだ。そのころ、外国帰りの人間が、外国ではちゃんと片側をあけているのに、日本は遅れているなどとさかんに新聞に投書していたように記憶する。やがて、だれが命令したわけでもないのに右側は歩いて上る人のためにあけるという「美風」がめでたく日本にも定着した。(言うまでもないが、関西では左側)

 しかし、この戸塚駅のエスカレーターでは、右側だけではなく、左側もあけている、というよりは、両側とも歩いているのである。このエスカレーターでは、とまっていることが許されない。時々年配の人が左側にとまって乗っていることもあるが、そのすぐ後ろの人間は明らかにじれている様子がうかがえるのである。

 ぼくは、十分老人の域に達していると自覚しているから、とまってやろうかと思うのだが、なかなかその「勇気」がなくて、しかたなく、せっせとエスカレーターを歩いて上るはめになる。そんなに歩いて上りたいなら、階段だってあるのだから、そっちを使えばいいじゃないかと思うのだが、一秒でもはやく上りたいらしい。せちがらい話である。

 そうかと思うと、昼間の駅などで誰も歩いて上る人などいないのに、律儀に左側にぴちっとならんで立ち、右側がずっと上まであいているということもある。しかもそのせいで、エスカレーターの前に行列ができてしまっていたりするのである。

 まったく、この日本という国の人間は、親分から子分まで全部バカなのではないかとさえ思えてくる。もちろん、ぼくもその一人なのだが。ああ、いやだ。


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