40 牛乳は「わかす」のか?

2008.5


「牛乳はどうする?」と家内に聞かれて、「わかして」と言うと、牛乳を「わかす」と言うのは変だと言われる。じゃあ何と言えばいいのかと聞くと、「あたためる」と言うんじゃないかしらと言う。「わかす」と言うと沸騰させるような感じがするというのだ。しかしそう言われても、昔からの習慣は急には直らず、同じ会話が繰り返されることになる。

 余談だが、ぼくは牛乳を「あたためて」飲むのはあまり好きではなかったのだが、5月になってもこう寒い日が続くと、あたたかい牛乳がしみじみ旨く感じられる。ホットミルクっていいなあと思ったりする。

 さて、辞書的にはどうなのか。牛乳を「わかす」は、ダメなのか。『日本国語大辞典』によると、「沸かす」の意味は、(1)水などを熱して煮え立たせる。また、水を適温にまで温める。(2)金属を熱して溶かす。溶解する。(3)酒を発酵させる。の三つの意味がある。「水を適温にまで温める」という意味があるから、「牛乳をわかす」もいいのではないかと思われるが、「金属を熱して溶かす」などという意味まであるとなると、確かに牛乳をわかしたら飲めないという感じもわかるような気がする。

 ぼくの父方は静岡県蒲原(かんばら)、母方は新潟県青海町(おうみまち)(現・糸魚川市)で、父方の祖父母が横浜へ出てきて塗装業を営み、母は新潟から知人の紹介で父の元へ嫁いだ。そういう家だから、言葉にしろ、食べ物にしろ、ゴチャゴチャになっていて、まるで寄せ鍋状態なのである。江戸弁とか、津軽弁とか、そういうどこか生粋の文化を感じさせるものへのコンプレックスが、ぼくのどこかにある。

 しかし最近、落語などを聞いていると、どうも我が家の言葉は江戸弁に近いものがあることを強く感じるようになった。横浜に長いのだから当然なのかもしれないが、例えば「お新香」のことを「おこうこ」、「みそ汁」のことを「おつけ」、「さじ」は「しゃじ」と我が家では言っていたが、「こうこ」も「おつけ」も落語では普通に出てくる。

 けれども中学に入ったころ、「おつけ」とか「おこうこ」と言って、友達からひどくバカにされた記憶がある。友達の使う「おみそしる」とか「おみおつけ」とかいった言葉に、何だか気取った言い方だなあと思ったこともある。

 家内の一族は生粋の土佐人だ。ちなみに長男の嫁の一族は、東京の本所、次男の嫁の一族は鹿児島である。我が家はますます「寄せ鍋化」しているわけである。


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