35 喉もと過ぎれば

2008.4


 真夏の猛暑の中では、これはたまらん、こんな暑さじゃ生きていられない、こんなことなら真冬の寒さの中で炬燵の中でぬくぬくしているほうがどんなに幸せかとつくづく思うのだが、いざ真冬になってみると、炬燵の中で縮こまり、こんな寒さではろくに外出もできやしない、こんなことなら真夏にパンツ一丁、Tシャツ一枚で、冷房で冷えた床に転がっているほうがどれだけ幸せかしれやしないとこれまたしみじみと思う。結局のところ、どっちも幸せではなくて、暑くても寒くても、辛い。特に、近年、寄る年波の中で、暑さ寒さは身にこたえる。

 昔からずっと感じ続け、思い続けていることなのだけれど、日本は四季があって素晴らしいなんていうけれど、本当に暮らしやすい、いい季節というのは、春と秋のはずなのに、その春も気温とか湿度とか天候とかが快適を極め、ああいい春の日だなんて思える日なんて、ほんの数えるほどしかない。まして近年のように花粉症の人が増えると、どんなに晴れたのどかな日でも、決して幸せな一日にはならない。

 秋にしても、天高く馬肥ゆる秋なんていって、どこまでも澄んだ秋空に、涼しく吹いてくる風が心地よい秋の一日なんていうのも、3日とないような気がする。ああ、今日は気温も快適でいい日だなあと思った翌日には、あっという間に冬を思わせる寒さが襲ってきて、長い冬に入ってしまう。つまるところ、辛く苦しい季節は長く、快適そのものの季節は短い。まあ世の中というものはそういう風にできているのかもしれない。人生もまたしかりであろう。

 それにしても今年のように春になっても、雨が多かったり、むやみと寒かったりする日があると、かえって真冬より始末が悪い。暖房をがんがん入れるというわけにもいかないし、入れないと寒い。着るものだって、いくら寒いからといって真冬のようなものを着るわけにもいかない。これならいっそ雪でも降ってくれたほうが、鍋でも囲む楽しみがあろうというものだ。

 春秋の争いといって、その昔から日本では、春がいいか秋がいいかと、飽きもせずに議論をしてきたわけだが、どうも秋のほうが分が良かったらしい。夏冬の争いなんていうのは昔はなかったが、今やってみても結局のところ決着がつきそうもないのは、喉もと過ぎれば暑さ(寒さ)を忘れるからであろう。それでほとんど一年中、暑いの寒いの花粉がどうの台風がどうのとブツクサ文句ばかり言って過ごすことになるのである。

 

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