29 よく分からない

2008.3


 前回のリモコンの話に関して、ほとんど同時に二人の友人からメールがきた。一人は、「やめときゃよかった」という題だから、結局直らなかったという話かと思ったら、何だ直ったのか。それじゃあ、やっぱりオレも直さなきゃいけないのかと思ってがっかりした、というような内容だった。その分かりにくい文面から察するに、彼の家のリモコンも具合が悪くて、奥方から直してくれと言われているが、めんどくさいから放っておいたところ、ぼくのエッセイで「やめときゃよかった」ことが実証されれば、それを口実に奥方を説得できると考えたのになあ、ということなのかもしれない。更に、原因が飴入りのクシャミというのは笑えたとあって、ここは別に笑いをとろうとしたのではなかったので、ちょっと意外だった。

 さてもう一人のメールは、結局直ったというが、その原因はほんとうに水飴だったのか、書かれていないので「どうだったの?」と思ったとあった。

 それで、原因は確かに、飴のようなものがこびりついていたことによるもので、その証拠に湿らせた綿棒でこすったら、きれいになったと書いた。ついでに、どうやってボタンを元に戻したかについては書かなかったが、さてどのようにしたのでしょう? と問題を出してみた。ついでに、もう一人の方にも同じ問題を出した。

 すると何だ直ったのか、残念、と言ってきた友人が、こんなメールをよこした。「針と糸を使う、ってどう? 天才?」 意味不明である。この問題が分かったら天才であるなどと言ったので、ぼくって天才? なんて言っているが、意味不明では仕方がない。で、その旨伝えると、説明しようと思うんだけど、説明することが無理に思える、だってぼくは言葉を信用していないから、という。

 翌日、改めてメールがきた。今日は酔ってないからと前置きがあって、「柔らかく少しは堅い敷物の上で、リモコンのカバーをあける。両脇、敷物上に針をさし、ピンと糸を張る。リモコン・ボタンの幅で、おなじように両脇に針を刺し、ピンと糸を張る。糸でボタンをはさむ。以下、同様にして、ぜんぶのボタンが糸に支えられて立ち上がったままパチンとカバーを閉め、糸を抜く。天才的である。」とある。天才的かどうか以前にやはりよく分からない。

 実は、前回のエッセイを書いたきっかけは、この複雑な状況を、言葉でどこまで伝えられるだろうかと思ったことにあった。実験は、友人をも巻き込んだわけである。


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