28 やめときゃよかった

2008.2


 テレビのリモコンの電源ボタンが妙な感触になってしまった。指で押しても、下に沈まないで重い抵抗がある。強く押すと、オン・オフの切り替えはできるのだが、どうもこれでは気持が悪い。おそらくボタンの隙間に何か飴のようなものが入り込み、それが固まってしまったのではないかと思われた。どうしてそんなところに飴が入るのか分からないが、例えば咳止めの飴をなめていているときに、くしゃみをして、飛び散った唾液がリモコンに降りかかり、ボタンの隙間から流れ込んだとも考えられる。

 何とかならないかと思って、ボタンの側面を濡れたティッシュで拭いてみたり、そのティッシュにアルコールを染みこませて拭いてみたりもしてみたが、やはり軽い感触にはならなかった。まあ強く押せばいいのだからあきらめよう。そう思って何日か過ぎた。

 しかしやはり気になってしかたがない。いっそ買い替えるか。しかしリモコンは小さい割には恐ろしく高価なのだ。多分一万円ぐらいするはずだ。

 とうとう我慢ならなくなって、分解して直すことにした。リモコンをよく見ると、ネジが5箇所にある。このネジを外せばボタンを覆っている金属の板(これにボタンの形に穴があいているわけだ)がパカッとはずれ、ボタンがあらわになる。そうしたら電源ボタンの側面についた飴のようなものを心ゆくまで拭けばいい。そういう目論見だった。

 まずネジをはずし、金属板をはがしにかかった。電源ボタンのある上部の方を持ち上げると、1センチほど反るようにして浮いた。しめた、これでボタンの側面を拭けると思った次の瞬間、思ってもいなかったことが起きた。しっかりと固定されているとばかり思っていたボタンが、カタッと倒れたのだ。エッと思う間もなく、上部のほうのボタンが次々に金属板からはずれ、バタバタと転がり、ばらばらになってしまったのだ。その怖ろしい光景に、どっと汗が噴き出した。

 それをさっきから横目で見ていた家内が、「わたしは、そんなことやらない方がいいんじゃないかなあと思っていたんだけどねえ。」と、この人はこうやって余計なことばかりするんだからと言いたい気持を精一杯こらえて呟いた。ああやめときゃよかったと後悔したが、ここであきらめたら男がすたる。冷静に粘り強く格闘をつづけ、見事に修復を終えた。我ながらエライものだ。

 それにしても、リモコンのボタンって、基盤の上にただ置かれているだけなんだ。チャチなもんだなあ。


Home | Index | Back | Next