14 バックスキンって知ってますか?

2007.11


 朝起きてまずラジオのスイッチを入れる。服を着る前に体重を量り、グラフ用紙にその値を記入し、着替えをすませるまでの約5分、耳からはラジオの声が入ってくる。そのラジオから流れる情報でときどきびっくりすることがある。

 今日の朝、こんな会話が聞こえた。「それバックスキンの靴ですねっていったら、いまどきバックスキンなんて言葉は古いですよ、スウェードっていうんです、っていわれたという話を前回放送したらいろいろ反響がありまして、こんな御意見を頂きました。それによりますと、バックスキンとスウェードは、まったく別物だというんですよ。」「え? そうなんですか?」「その方によりますとね、バックスキンのバックっていうのは、BACKではなくBUCKなのであって、つまりバックスキンというのは『裏革』ではなく、シカの革という意味なんだそうです。それでね、スウェードというのは、それとはまったく違って、子牛の革の裏側のほうを毛羽立てたものなんだそうですよ。」「えー? そうなんですかあ? 全然知りませんでしたあ。」

 ぼくもびっくりした。バックスキンというのは、「バック」つまり「後ろ」つまり「裏」の「スキン」なんだから「革の裏地」だとこの58年間、信じて疑ったことはなかった。というかそれはもう常識の範囲だったので、信じるも疑うもないことだった。しかし「バック」が「シカ」だなんて。スターバックスも何かシカに関係あるのだろうか。

 学校に行って国語科の研究室にいた若い二人の教師に「バックスキンって何だか知ってる?」とさっそく聞いてみた。「裏革」のことでしょ? という答えを期待していたのだが、何と二人から返ってきた返事は「バックスキンなんて言葉知りません。」だった。そんな言葉は知らないし、使ったこともないというのだ。バックスキンってそんなに古い言葉なのかとちょっとショックを受けた。これでは蘊蓄のたれようもない。ついでに聞いたら、彼らはバッグス・バニーも知らなかった。やれやれである。

 しばらくするとぼくと同い年の教師が来たから聞いてみると、案の定「裏の革だろ?」の答え。これでやっと自慢できるというもの、得意になって説明した。説明しながら、いちおう英和辞典にあたってみたが、やはりそのとおりだった。ちなみにスウェードのほうはフランス語だった。もとスウェーデンの意ともある。この革を作る技術がスウェーデン生まれだったかららしい。


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