12 トンボは卵をどこに産む?

2007.11


 モンシロチョウというのは、人間が見た限りでは雄と雌の区別がつかない。ではどうやってモンシロチョウの雄は雌を探すのか、という研究をした人の文章が中学1年生の国語の教科書に載っていて、それがけっこう面白かった。仮説をたててあれこれ実験するのだが、結局その仮説は崩れ去る。人間の見た目では雄か雌か区別がつかないということをそのままモンシロチョウにもあてはめていたことが失敗の原因だった。何とその後の調査・研究で、モンシロチョウの雄と雌の羽根では紫外線の反射率が異なり、モンシロチョウはそれをちゃんと見分けていたのだった。人間には見えない紫外線を、モンシロチョウは見ることができるというのだ。

 あんなヒラヒラと頼りなく飛んでいるチョウチョだからといって甘く見たのがいけなかったんだね。人間はエライといばってみても空を飛ぶことはできないもんね。ぼくはいつも鳥や昆虫を見るとすごいなあと思うよ。あんなちっぽけな体で軽々と空中に浮くんだからねえ。なんて話しながらも、やっぱりすごいと感慨に浸ってしまった。

 たとえばモンシロチョウの場合、胴体はほんとにヒヨワで、指先でちょっと押すだけでプチンとつぶれてしまう。昔昆虫採集をしていたころにチョウもずいぶんと捕まえ標本にしたから、そのときの感覚はいまだに指先に残っている。そのヒヨワな胴体で、4枚の羽根を支え、動かし、空中に浮いてしまう。もし人間が同じことをしようとしたら、それこそ4メートルもある羽根を4枚、自分の筋肉で羽ばたかせなくてはならない。いったいどれくらいの筋トレをしなければならないのか。それを思うと気の遠くなるような離れ業を彼らはしているように思え、いやまさにしているのであって、畏敬の念を禁じ得ないのである。

 でもねえ、そうはいってもヤツラもそうそう利口ではないんだね。トンボはどうやって卵を産むか知ってるね。そう、水面にちょこんとお尻をつけて卵を産み落とすわけだ。ではどうやって水面を知るかというと、つるんとしていてピカピカ光ってると、それを水面と思ってしまうんだ。だから、ほら、見たことないかなあ、夏の炎天下に車のボンネットによくトンボが卵を産んでるでしょ。あれバカだよね。産んだとたんに卵は目玉焼きだ。トンボって熱いとか冷たいとかいう感覚がないみたいだね。

 なんて得意になって話していると、ある生徒が言った。「先生の頭にも、トンボ、卵を産みましたか?」


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