8 あの鳥は何の鳥?

2007.10


 この間の夏休みは、毎度のことながら結局どこへも行かずに、ほとんど家にいて、仕事をしたり、本を読んだり、まあ勝手気ままな日々を送った。暑い日々は、家でごろごろしているのが一番理にかなっている。

 そういう日々のちょっとしたアクセントは、毎朝見るNHKの朝ドラ『どんど晴れ』だった。朝ドラは、週休日(ぼくは金曜日が週休日といってお休みです)に、『芋たこなんきん』なども好きで見ていたのだが、今回の『どんど晴れ』には、ぼくの青山高校勤務時代の教え子の那須佐代子さんが、仲居さんの一人として出演していたこともあって、特に夏休みに入ってからは欠かさずに見ていた。ドラマはいつになく面白い展開で、毎日が実に楽しみだった。

 毎朝8時15分、リビングに寝ころがって見ていると、まだクーラーも入れなくても済む時間とて、開け放した窓から、きれいな鳥の声が流れこんでくる。初めのうちは、何の鳥だろうとも思わなかったが、毎朝のように聞こえてくるその鳥の声に耳を傾けると、やはりどうも思い当たる鳥の名前が浮かんでこない。こういう鳴き方をする鳥は、少なくとも去年はいなかった。温暖化の影響で、昔は南の方にしかいなかった蝶なども飛んでくる世の中だから、ひょっとして珍しい鳥が飛来して向こうの丘で鳴いているのだろう。それにしてもコロコロと玉を転がすようなきれいな声だ。何という鳥なのか知りたいものだ……。

 などと思いながら、8月も半ばとなったある日、いつものように『どんど晴れ』を見ていると、またもきれいな声で鳴き始めた鳥の声に、「このごろいい声で鳴く鳥がいるよねえ、いったい何という鳥なのかなあ。」と家内に聞くともなく聞いてみた。すると、意外な返事が返ってきた。「テレビでしょ。」「え? 何?」「その声、テレビから聞こえて来ているのよ。」

 我が耳を疑った。てっきり向こうの丘で鳴いていると思っていたのに、ドラマの中の声だったとは。しかし、そう気づいてみると、なるほど確かにテレビのスピーカーから聞こえてくる。そしてその時、電光のようにひらめいた。カジカだ! 

 鳥ではなかった。あの声は6年ほど前、次男の結婚のことで嫁の実家のある鹿児島に行ったとき、ある料亭の庭で鳴いていた、あのカジカガエルの声に違いなかった。

 その時、ドラマはまさに夜の場面。夏美さんの美しい横顔を浮かばせる庭の闇に、カジカの澄んだ声が心にしみ入るように流れていたのだった。


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