3 「氷殺ジェット」

2007.9


 「氷殺ジェット」をはじめて見たときは、そのアイデアにびっくりし、感動した。花王の新製品「バルサン 飛ぶ虫氷殺ジェット」「バルサン 這う虫氷殺ジェット」の2種類。殺虫剤などの成分は一切入っておらず、虫を凍らせて殺すのだという。「氷殺」というネーミングも「必殺」みたいでかっこいい。これでスプレーすると、虫はどんなふうに凍るのだろう。「飛ぶ虫用」と「這う虫用」ではどこが違うのだろう、と次々と興味が湧いた。

 これを考えついたヤツは、野球の試合などでよく見かける「コールドスプレー」を、ひょんなことから蟻とか蠅なんかに吹きかけてみたんじゃないのか。おや、死んだぞ。そうだ、これは新しい殺虫剤になる! と小躍りしたに違いない。絶対そうだ。

 殺虫成分が入ってないから、赤ちゃんのそばでも安心して使えるわけだし、食卓に蟻が這っていても、気兼ねなくスプレーできる。これはすごいではないか。

 そういうわけで、家内とスーパーに行くたびに、「氷殺」の前で立ち止まり、ねえこれ買おうよというのだが、家内は絶対にうんといわない。いったいどこで使うのよ。そんなに虫なんかいないじゃない。使わないのにそこらにあるのが嫌なのよ。第一高いでしょ。

 確かに、キンチョールなんかの倍ぐらいする。高い。しかし、引き下がれない。とにかく使ってみたいんだ。蚊が飛んで来てさ、それに向かってシューッとやると、凍るんだぜ。どうなるのかなあ。凍って落ちるのかなあ。やってみたいだろ? そう食い下がってみても、ダメ、の一言。自分の金で買うからといっても許可がおりない。理不尽である。

 次男夫婦と一緒に食事をしたときも、その話をして、例えばさ、最近キッチンに小さい蟻が出てくるわけだよ。そういうときキンチョールは使いにくいよね。それで「氷殺」使えば便利でしょ? と嫁にいってみたが、そんな蟻は指でつぶせばいいとこれもすげないお返事。ああ、まったく女というものはどうしてこう好奇心に欠けるのか。ナゲカワシイことだ。

 そんなふうに嘆いていた矢先、何とこの商品が自主回収され、製造も中止するというニュースが入った。これを火のあるところで大量に使用して火傷をするという事故が発売以来20件にも及んだというのだ。開発者はさぞ無念だろう。

 しかし、ぼくもキッチンで使えると主張していたので、危ないところだったのかもしれない。やっぱり女は偉い。

 でも、一本買っておくんだった。

 


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