98 ゴムを止めろ!

2007.7


 今年は中学1年生の担任をしているのだが、これでやっかいなのは「海のキャンプ」という行事である。何ごとにせよ宿泊行事というのは教師にとっては難物で、これが年端もいかない中学1年生ともなれば一筋縄ではいかない。

 ぼくはカナヅチだから、水泳だの何だのは最初から他の教師にまかせて、生徒に何を聞かれてもぼくは泳げないから全然分かんないととぼけていればいいけれど、これが夜の「お楽しみ会」ともなるとそうはいかない。これは完全に担任の仕事である。

 一晩目は映画と決まっているから楽だと思っていたが、何の映画にするのかで結構悩んだ。最初は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にしようと思って、改めて見返してみると、これが意外に高級で今の中学生には分かりにくい部分がある。で『ジャイアント・ピーチ』にしようと決めたが、これでは幼稚だといって生徒が馬鹿にしないかなあなどとまた悩んだ。(結果はまあまあだったかな…)

 二晩目は「ゲーム大会」。生徒の自主性尊重の名のもとの手抜きでクラス委員にまかせた。事前にどういうゲームをやるのか聞いたら、「ゴムを止めろ!」というゲームをやるという。長いゴムヒモの両端を係りが持つ。片方の者はゴムを固定し、もう片方がゴムを放す。チーム全員がそのゴムの途中の任意の位置に座りゴムの真上に手のひらを置きスタンバイ。そして放たれたゴムをみんなで押さえる。そのゴムを固定された端からの距離が一番長いところで止めたチームが勝ちとなる、ということだった。

 やってみたら、ものすごく面白い。ぼくがゴムを放す役目となった。生徒たちはどきどきしながらこっちを見ている。それと悟られないように、ぱっと放す。するとゴムが開かれた生徒の手のひらの真下をシュルシュルッと音を立てて滑ってゆく。ワッと言って生徒たちが手を床にたたきつけるが、ゴムはぼくよりずっと先の生徒の手のひらによって辛うじて止められる。

 あまりに面白いので、もう一回やろうぜと提案して、こんどはもっとゴムを強く張った。ものすごいスピードである。それでも生徒は何とか止める。止めた生徒は得意満面。面白くて一晩中でもやっていたい気分だった。

 知らず知らず夢中になっている自分を意識して、ちょっと不思議な感覚を味わった。完全に中学生に戻っていたかのような。まるで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』さながらに、タイムスリップしてしまったかのような。

 


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