93 あきらめるのはまだはやい

2007.6


 「クラッシュ!」を書いてから2週間たった。

 クラッシュといっても、機械そのものが壊れたのではなく、基本ソフトであるOSに重大な障害が発生し、「初期化」を余儀なくされたということだ。まあ仕方ないか、それほど大事なファイルがあるじゃなし、とは思いながらも未練が残り、なかなか「初期化」をする気にはなれなかった。

 「クラッシュ」から1週間たったころ、半年ぐらい前に、万一のためにハードディスクを丸ごとバックアップするソフトを使って、バックアップをしたことを思い出した。「思い出した」というのも間抜けだが、実はそのときにもバックアップには一応成功したものの、再起動ができなくなり、コールセンターのお姉さんの1時間以上にも及ぶ指導のもと、まさに命からがら復帰したという苦い経験があり、できあがった「バックアップファイル」は見るのも嫌で、捨ててしまおうと何度も思ったほどだったのだ。そのファイルのことを突然思い出して、試しに開いてみた。すると、何ということだろう。半年前のことだから、それ以後のファイルはもちろんないが、ほとんどのファイルは、音楽ファイル、メールアドレスなどみなそこにあり、簡単に取り出せるではないか。癇癪をおこして捨てなくてよかった。これは運がいい。そう思ったぼくは、次にこう考えた。

 アップルのお兄さんは「初期化」のご託宣を下したが、「アーカイブインストール」というものもあるのだと言っていた。それは「初期化」ではなく、基本的なOS部分のみを入れ替えるので、個人が作成したファイルなどは残る、というものだ。しかし、それではたぶんこの重大な症状は改善しないと思うので「初期化」をするしかないです、という結論だったのだ。

 それをぼくは疑わなかったが、しかし疑ってもいいのではないか。お兄さんは神様じゃない。「たぶん駄目」ということは「ひょっとしたら大丈夫」かもしれないではないか。そう思って、「アーカイブインストール」を実行してみた。するともう二度と見ることができないと思っていた懐かしい画面がモニターに現れた。もうびっくりである。これであきらめていたファイルを無事に救出することができた。もちろん、そのあとで「初期化」をやらないとやはり駄目なこともわかったが、被害は最小限に食い止められたわけだ。

 たとえ専門家の言葉であっても、それを真に受けるだけが能ではない。何でもやってみるものである。


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