86 連休雑感

2007.5


 大型連休だからといって、人混みの中にわざわざ出かけてゆくということはしないことにしているが、それにしてもいい天気、家にいてゴロゴロしているのがいちばん好きだとはいっても、人混みウオッチングというのもオツではないかということで、夫婦で横浜みなとみらい地区にでかけてみた。

 車は敬遠して、横浜市営地下鉄で桜木町まで行き、そこから歩いて横浜ワールドポーターズというショッピングモールのような所へ行った。さすがにすごい人出。人波をかきわけて歩いていると、福岡ナンバーの車が、室内灯がついております、という場内アナウンスが流れた。福岡からわざわざここまで来たってことかと、ひどくびっくりした。もっともここへ来る途中の人の群れのかなりの部分が、中国や韓国からの観光客だったような気がするから、福岡から車をとばして来たって何の不思議もないわけだが、なんだかひどく妙な感じがしたのだった。

 我が郷土が全国的な人気を誇っていることはまことに喜ばしい限りではあるが、どう考えても横浜みなとみらいって所は、人工的なところだし、ましてこのショッピングモールぐらいのものは、どこの地方都市にでもあるではないか。はるばる車をとばして来る所とはどうしても思えない。

 どこへ行こうとそれこそ個人の勝手だが、よくテレビの『笑ってこらえて』なんかで、とんでもない田舎に行き、土地のじいさんやばあさんに「東京から来ました」なんてレポーターが言うと、きまって彼らは感に堪えないような奇妙な声を発する。こんな田舎のどこがよくてわざわざ東京から来るんだろうと土地の人は理解に苦しむのに違いない。海外にしても、日本なんて素敵な国に住んでいながら何が悲しくてこんなアフリカのジャングルに来るんだろうと、現地の人は不思議がっているだろう。

 みんな、知らない土地に行って珍しいものを見ることばかり考えているが、それは生活が浮ついているからで、自分が生まれた土地をとことん愛し、そこで静かにつつましく暮らすことこそが人間の本来の生活というものではなかろうか。

 陶淵明の描く「桃源郷」の住民は、まったく他の世界を知らなかった。老子の描くユートピアの住民は、犬や鶏の声が聞こえるくらい近くの村にも行こうとしないとある。これでは、経済の活性化もあったものではないが、連休の高速道路の大渋滞を見るにつけ、どっちが幸せだかわかったものではないとつくづく思うのである。


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