71 思いこみ

2007.1


 最近ときどき、休み時間などに研究室でパソコン相手に碁を打っているのだが、どうもこれが勝てない。という以前に、その囲碁ソフトの使い方がよく分からない。それというのも、その囲碁ソフトが英語版だからなのだ。

 それでも、「開始」が「start」であるぐらいはすぐに分かるから、対局はいちおう成立する。しかし何度やっても黒を持ったぼくが負ける。初めのうちは、やっぱりオレは弱いなあと思っていたが、そのうち白石を見事に殺してしまったりして、どうやら今度こそオレの勝ちだと思っても、「終了」すると必ず「White wins」という英語が出る。

 つい先日も、どう考えてもぼくの勝ちなので、囲碁の強い教師に「これ絶対ぼくの勝ちだよねえ。」とパソコンの画面を見せると、「仕事をしているのかと思ったら、遊んでたんですか。」といいながらも「これは黒のぼろがちですよ。」と太鼓判。

 そのとき突然「resign」という単語の意味が気になった。実はそれまでこの「resign」というのを、何となく「レジスター」に似ていると思いこみ「計算する」だと思っていた。それで、打つところがなくなって、これで「終了」というときには、「resign」ボタンを押していたのである。そうすると必ず「White wins by resignation」と出るのだ。これをぼくは「計算したところ白の勝ち」だと解釈していたのだ。

 しかしその日、初めて辞書を引いて驚いた。何と、「resign」とは「途中でやめる」「権利を放棄する」という意味であり、囲碁でいえば、参りました、もう降参です、という意味だったのだ。そうなると「White wins by resignation」とは「黒が降参したので白の勝ち」ということになる。どんなに黒が勝っていても、黒が「白旗」を挙げて降参です、といったら白の勝ちになるに決まっている。なんだそういうことか。じゃあ「これで終わり。もう打つところがありません。」というボタンはないのかとよく見ると、「pass」というのがあるではないか。今まで、何だこれ、としか思っていなかったこの「pass」ボタンこそ、「終了」ボタンだったのだ。

 それで、その「pass」を押してみると、初めて「黒の25目勝ち」と出た。勝った勝ったと大喜びをしたが、それよりも自らの語学力のなさを、また、ちゃんと調べないいい加減さをこそ、猛反省すべきところだった。


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