68 石の趣味

2006.12


 石などと言い出したら、人間そろそろオシマイに近づいているなんてよく言われるが、果たしてそうだろうか。確かに、石を集めたり、石を眺めたりするということを趣味としていると聞けば、サーフィンだスノボーだのを趣味としていますというよりジジ臭いと思うのが人情だろう。しかし、石の趣味のどこがジジ臭いのかと聞かれて、誰でも納得する明快な答があるだろうか。ただ石を趣味とする人の多くが、高齢者に多い(らしい)ということでしかない。石集めや石眺めは、別に年齢とは関係のない立派な趣味なのだ。

 定年後に急に石の趣味にのめり込んだ先輩の知人がいて、ときどきそのコレクションのことを楽しそうに話すので、是非いちど拝見したいと思い、先日お宅まで押しかけてきた。

 聞きしにまさるコレクションだった。盆石・水石から、貴石(宝石の一歩手前のものらしい)、山や川で拾ったもの、果てはガラス玉まで、特にジャンルは決めずに集めていますということばどおり、いわば雑多な石の数々が、特別に作った棚以外にも、机やビデオラックのビデオの前などに所狭しと並べられている。

 この手の話を聴いてくれる人はそういないと喜んで、その100以上にものぼる石のひとつひとつについて説明をしてくださったのだが、2時間近くにも及ぶその説明がちっとも退屈ではなかった。それはその人がひたすら「石の美」を語ったからだった。もちろんその石を手に入れた来歴も必ず話の中には挟み込まれていたが、話の中心は「どう、きれいだろう?」「これを光りに透かしてみるとね、ほらこんな風に光るんだよ。」「この模様はまるで木の枝だね。いいねえ。」といったふうな調子で、これはきっと高く売れるとか、これはいかに珍しい手に入りにくい石か、などというような下世話な話はほとんどなかった。

 浜辺や河原できれいな石を見つけて、それを持ち帰り大事に飾っておいた、などということは子ども時代なら誰でも一度は経験しているだろう。その人は、それと同じことを定年過ぎてもやっているに過ぎない。骨董市に出かけたり、鉱物の専門店に行ったりして買うことが多いにしても、それは大人だからで、基本的には「美の採集」である。純粋そのものだ。

 話を聴きながら、その昔昆虫採集に夢中になっていたころの気分を思い出していた。標本箱に並べられた昆虫は、まさに「美」そのものだった。ほんの少しだけ、石を集めてみようかなあ。


「Daily Phto」に、写真があります。

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