66 勉強不足

2006.12


 2学期の後半、高校2年の古典の授業で「大鏡」をやった。1学期以来やってきたのは「源氏物語」で、これはぼくの大好きな作品だから、こちらとしては楽しく授業ができた。

 ところが「大鏡」となると話が違う。この「大鏡」というヤツはどうも苦手なのだ。それというのも、ぼくが高校3年の時に、1年間この「大鏡」だけを読む授業というのがあり、その授業がちっとも面白くなかったからなのだ。面白いとか面白くないとかいう次元の問題ではなく、とにかく分かりにくかった。人間関係も、敬語も、さっぱり分からなかった。その結果「大鏡」が大嫌いになってしまったのだ。

 そういう苦手で嫌いな作品を、生徒に教えるというのは、大変よくないことで、下手をすると生徒にまで、嫌い・苦手という意識を伝染させてしまう恐れがある。それで、何とか、分かりやすく教えようとしたのだが、とにかく、出てくる登場人物についての知識がぼくには決定的に欠けている。例えば藤原道長というあまりに有名な人物についてさえも、あまり詳しくは知らない。要するに勉強不足なのである。

 で、同僚の国語の教師に、「この花山天皇というのは、そもそもどうして出家するのかねえ。」などと基本的なことを聞いてみると、それはこういうわけで、それから出家したあとはこうでと、実に詳しく説明してくれる。どうしてあんたはそんなに詳しいの? どうすればそんなに詳しくなれるの? もちろん「大鏡」を全部読むなんてことをしないで、だよ。なんてことを恥ずかしげもなく聞いてみると、それは歴史小説を読めばいいんですよ、例えば永井路子とか、杉本苑子とか、と言う。

 そういえば永井路子も杉本苑子も、名前は知っているが、読んだことがない。実は歴史小説も、登場人物が多くてめんどくさいのであまり好きではないのだ。

 しかし、背に腹は替えられぬ。この際読んでみようと、薦められた永井路子の「この世をば」という小説を読んでみた。藤原道長を主人公にした小説である。

 なんだ、みんな書いてあるじゃないか、とびっくりした、というのも間の抜けた感想だが、本当なのだから仕方がない。名前だけは知っていた道長、道兼、道隆の兄弟やら、花山天皇やら、彰子やら、定子やらが個性豊かに生き生きと描かれている。文章もくだけていて読みやすい。目を開かれた思いだった。

 もっとも読み終わった時には、「大鏡」の授業はとっくに終わってしまっていたが。


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