64 新しいものが好き

2006.12


 新しいものの方が文句なくいい、という世界がある。デジタル機器の世界だ。どんな素晴らしいデジタルカメラも、発売されて2年もたてば、急速に魅力を失う。薄型テレビにしても、パソコンにしても、後から発売されるもののほうがいいに決まっている。新しいものがいい、という点ではファッションにも似ている。しかしファッションの方は、また戻ってくるということがあるが、デジタル機器の世界ではそんなことはまず起こらない。古いものは全然ダメなのである。

 新製品に飛びつくのは愚の骨頂だということがよく言われるが、デジタルカメラを時間をかけて慎重に選んで買って、それを10年も20年も大事に使い続けようなんて思うことこそ馬鹿げている。フィルムカメラなら、それこそ何十年も愛用できるものがあるが、デジタルカメラでは少なくとも現状ではそういうことはありえない。淋しい気もするが、そんなことをいっても始まらない。世界が違うのだ。

 新しい葡萄酒は、新しい革袋にという聖書の教えが、どのような真意をもっているのか知らないが、新しい技術の世界に対しては、新しい心構えのようなものが必要だというように置き換えることができるのかもしれない。

 ワープロが出れば真っ先に飛びつき、ビデオカメラが出れば、誰よりも先に買い込み、パソコンのOSにしてもソフトにしても、いつも最新のバージョンを組み込み、というようなことばかりやってきたここ20年あまりを振り返ると、なんという無駄遣いをしてきたことかと反省もしきりだが、それなりに楽しんできたようにも思うのだ。要するに、新しいものが好き、ということだ。新しい技術が切り開いた新しい世界が、ぼくにはたまらない魅力だったということだ。

 新しいものが、新しさゆえに魅力をもっているということは、同時に、それは必ず古くなって魅力を失うということでもある。古さの魅力というものももちろんあるが、それはまた別の話になる。新しい機能を誇ったデジタルカメラが、古くなってもその機能ゆえの魅力を持ち続けるということは絶対にない。

 キーワードは「機能」だ。「機能」を軸に考えるかぎり、古いものに勝ち目はない。もしも古くなったデジタルカメラが、それでも捨てがたい魅力を持ち続けることができるとしたら、それは「機能」から離れた魅力、例えばデザインといったものによるだろう。あるいは、そのモノに込められた思い出とか。


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