49 意志が強い?

2006.8


 ダイエットを始めてから、酒もぴたっとやめてしまって2ヶ月半経つ。もっとも、まったく飲まないというわけではなく、必要に応じて飲む。必要に応じてというのは、自分の体の必要ではなくて、宴会の席のような場合を指すから、そういう場合というのは、この2ヶ月半で、4回ぐらいしかなかった。宴会のような席といっても、妹の家での新築祝いとか、長男が孫を連れてきたとかいった類の、きわめて健全なことで、温泉旅館で芸者をあげて騒ぐとか、銀座のクラブ(ないしは場末のスナック)で飲んだくれるとかいうことでは更々ないのは言うまでもない。もちろんこの「言うまでもない」という言い方が疑いもなく成立してしまうのは、ぼくが高校教師という世俗をいわば超越(超越といわずしてなんと言おうか)している職業についているからで、これが一般サラリーマンならば、「言うまでもない」とは簡単に言えないのは、言うまでもない、だろうと思う。

 それはそうと、酒である。ダイエットを始めるまでは、だいたい寝る前に焼酎を1合ほど飲んでいた。学校で疲れ果て、家での仕事もないときは、夕食時に缶ビール1杯を飲むということも稀ではなかった。そういう次第だから、そういった日常的な飲酒をいっさいやめてしまったと言うと、「意志が強い」とか「すごい」とかよく言われる。家内も、ちょっと感心しているふうでもある。それでついその気になって自慢したくもなってしまう。

 しかし、どうも、「意志が強い」というのではないような気がするのだ。というのも、酒を飲まないことが、ちっとも辛くないからなのだ。辛いことをぐっと我慢してこそ、「意志が強い」と胸を張って言えるわけだが、辛くないことをしても我慢したことにはならない。

 あなたはお茶を飲んでほっとするとかいうこともよくわからないと言うんだから、お酒を飲んで疲れを忘れるとか、いい気持ちになるとかいうこともないんじゃないの? と家内が言う。

 そう言われればそうかもしれない。酒を飲んでも飲まなくても、ぼくはあんまり変わらない。酒の席だから言えるなんてこともない。むしろ素面の時に言いたい放題言ってしまうので、酒を飲んだときは面倒な話はしたくない。といって酒を飲んだからといって、とりたてていい気持ちになるわけでもない。酒を飲むことが無上の楽しみだという人が羨ましいくらいだ。

 ぼくにはどうもこの無上の楽しみというヤツが欠けているようだ。


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