41 朝起きたら、負けていた。

2006.6


 ワールドカップの喧噪も去った。

 4年前の大会のときは、さすが地元開催ということもあり、おまけに家のすぐ近くにある横浜プリンスホテル(ここもこの6月末日をもって営業終了となる)に、決勝戦に出るブラジル代表選手団が宿泊していたこともあり、その上、偶然とはいえ、その選手団がホテルを出発するときに、ぼくら夫婦がそこに居合わせ、バスから手を振っているロナウジーニョとしっかり目があってしまったという出来事もあったものだから、少なくともドイツ対ブラジルの決勝戦は、胸ときめかしてテレビ観戦したのだったが、今回のドイツ大会は、ただただマスコミや日本人のどんちゃん騒ぎにウンザリするばかりだった。

 とはいえ、初戦のオーストラリア戦ぐらいは時間も午後10時ということでもあり、見てみようと思ってテレビの前に陣取ったが、日本が1点とったあたりから眠くなり、あと30分を残すあたりで床に入ってしまった。そのまま勝ったのだろうと思って、朝起きたら、負けていた。

 それで、次のクロアチア戦は、どうしようかと思ったが、まあこれも浮世の付き合いとばかり見ることにした。前回が、寝てしまったあと、大波乱があったので、こんどは最後まで見ようと思った。しかしテレビ朝日の方は、もう夕方からお祭り騒ぎとなっていて、やたら「運命のクロアチア戦まであと2時間!」などと「運命の」をバカの一つ覚えみたいに繰り返し絶叫するものだから、静かなNHKの方で見た。最後まで見たのに、何のことはない、0対0の引き分け。川口がPKを止めたことには感動したが、結局退屈してしまった。

 ブラジルに2点以上の差をつけて勝たなければダメという事態になっても、「まあ、無理でしょう。」などとコメントするものなど一人もいず、ただひたすら「奇蹟を起こせ」の大合唱。第二次大戦末期の陸軍を彷彿とさせた。「まあ無理でしょう。」などと口走ったりしたらそれこそ「国賊」呼ばわりされかねない雰囲気。というか、そんなことを言ったら視聴率が落ちてしまうから、それだけは絶対に禁句だったのだろう。だとしたら、これも一種のファシズムではないのか。

 ブラジル戦は、見なかった。午前4時まで起きていることなどできないし、午前4時に起き出すほどの物好きでもない。

 朝起きたら、負けていた。いろいろな人間が、ああでもないこうでもないと、口角泡を飛ばして敗戦を論じていたが、ぼくにはどうでもいいことだった。


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