25 幸せ競争

2006.3


 夜も11時を過ぎると、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」を、酒を飲みながら見るのが習慣である。経済にそれほど関心があるわけでもないが、キャスターの小谷真生子さんが綺麗でなおかつ結構面白いし、その他のキャスターの女の子も可愛いし、週ごとに変わるコメンテーターのおじさんも、その道のプロなので、それなりに説得力があるし、その上、最新の商品の紹介などがあってこれは大変興味深いし、というようなわけでたいていは見ている。

 けれども、昨今のように景気が回復してきて、バブルの再来かと言われるような時期になると、時代の恩恵を受けた富裕層の話が多くて、いきおい「ふざけるな」とか「おれには関係ない」とか、酒を飲みながらブツブツ呟くハメになり、テレビの前が新橋あたりの居酒屋風になってしまう。

 そうかと思うと、せっかくいい気持ちで飲んでいるときに、突然、画面に中高時代の同級生が現れることもある。先日も団塊世代の大量退職を迎えていよいよ国も技術の伝承に力を入れ始めましたという話から、中小企業庁の長官のインタビューに移った。その長官は、同級生である。白髪交じりの髪は豊かで、上品な顔立ちでサクサクと語る。この前同級生が亡くなったとき、学校まで電話してきてくれたのもこの男で、あいにく席を外していたので、折り返し電話をすると、「はい中小企業長官室です。」といきなり若い女性の声で応対されたので、びっくりしてしまった。そうか、秘書がいるんだよなと、妙に感心したものだ。

 そういうとき、どうしても自分の境遇とそういうエライ友人とを比較して、なんとなくミジメな気分になる。比較は不幸のもと、なんてことを日ごろ生徒に向かって言っていながら、自分自身はこの「比較」からちっとも自由になれていない。

 先日卒業式があった。図書館から出している広報誌に、高3担任の言葉が載った。ぼくもつまらないことを書いたが、同じ担任の教師が、3つのお願いがあるとして、「私たち(教師)に対して」「お互い同士」「神について」の3点をあげ、そのうち二つ目の「お互い同士」の項で、こう書いていた。

長い人生に挫折はつきものですし、幸福の基準はひとつではありません。幸せ競争はしないように。

「幸せ競争」か、そうか、オレはそればっかりだったなあ。隣に座って愚痴ばっかり言ってるオレを見て、彼はそう書いてくれたんじゃなかろうか、そう気づいて、思わず頭を垂れた。


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