17 どこにあるの?

2006.1


 この冬は全国各地で大雪に見舞われているというのに、横浜では晴天が続き、12月はほとんど雨らしい雨が降らなかった。空気は乾きに乾き、そのせいか年末にひいた風邪は正月になるまで治る気配もなかった。それで、その乾いた空気を何とかしようと、正月に加湿器を買った。もう数十年も前に一度加湿器を買ったのだが、そのときは、あたりがびしょ濡れになった苦い経験があるのでどうも気が乗らなかったのだが、使ってみると、周囲がびしょ濡れになるということもなく、40パーセントを割っていた室内の湿度も、あっという間に50パーセントを超え、技術の進歩に驚いた。

 驚いたのはそれだけではない。タンクにためた水の減り方がハンパじゃないのだ。タンクには約2リットルほども入るのだろうか、使い初めは、その水が1週間ぐらいは楽に持つと思っていた。ところが半日もしないうちにタンクが空になるのである。しかも部屋のどこもびしょ濡れになっていない。ではこの2リットルの水は、いったいどこに行ったのか。この部屋の空気の中に、この2リットルの水がどうやって浮かんでいるのか。といった初歩的な疑問が頭の中を巡った。理科の教科書を読めば、そんなことは簡単に分かるのだろうが、その説明を聞いたとしても、タンクになみなみとあった水が、跡形もなくなって、空気中に存在するようになったという事実は、どうにも感覚的は受け入れがたいものがある。

 今、世界にあるすべての飛行機が、もし一斉に着陸しなければならなくなったとしても、全部は着陸できないのだということを、何かの本で読んだ。飛行場が足りないのだそうだ。何万機、何十万機といった飛行機が、世界に存在しうるのは、その何分の一かが空中を飛んでいるからだという「事実」は、頭では理解できても、なかなか感覚的には分からない。飛行機は飛び続けることでしか存在できないということになり、それでは、マグロと同じことになってしまう。

 マグロも泳ぎ続けなければ死んでしまうのだそうで、何やら切ないが、考えてみれば渋谷駅前の交差点が、全国的に有名な割には、押すな押すなの大混雑の末、圧死者の山とならないで済んでいるのも、そこを訪れる人間が常に動いているからで、これが、訪れた人間が最低でも1時間はそこに留まって大都会に来たという感慨に耽っていたら、いったいどういうことになるのか想像もつかない。

 いろいろどうも、不思議なことばかりである。


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