私説・日本映画小史 10

小国英雄の喜劇


 シナリオライターの小国英雄は一九〇四年青森県生まれ。三十歳を越えて、脂が乗ってきた。

 三五年の『のぞかれた花嫁』は、「あなたと呼べば」という主題歌で知られるが、小国はこの作品で、日活・現代喜劇のつくり方をマスターした。小市民の日常生活、微妙な心の行き違いから生まれるドラマ、艶っぽい話が絡み、生活を明るく見なおす結末。

 三八年、東宝に移ると、斉藤寅次郎監督の喜劇の骨法を身につけた。この監督は、「穴掘っていってパッと出たら、北海道だったなんて、そういう無茶苦茶を平気でやるんだよ」(「FB」94年冬号、大橋祥司『聞き書き 小国英雄』)。

 四一年の時代劇『昨日消えた男』。強欲な大家が殺されるが、殺す動機をもった人間が長屋にはウヨウヨ。そんなミステリーをコミカルに展開したところが、新鮮だった。

 きっぷのいい主人公に、おきゃんでかわいい芸者。「なるほど」と「まったく」しか言わない狂言回しの駕篭かきコンビ。探偵物に欠かせない迷探偵もいる。

 多彩な登場人物を弾むような会話で十分に描き、第二の殺人が起こる。テンポがいい。見せ場の殺陣があって、一気の謎解きと意外な動機。モダンで、のびやかで、間然するところのないシナリオだった。

『男の花道』(マキノ正博監督、長谷川一夫・古川緑波主演)も四一年の作品。

 戦後は、五所平之助監督の『煙突の見える場所』(五三年)、黒澤明監督の『生きる』(五二年)から『乱』(八五年)まで。映画化されていない傑作『馬と話した男』を含め、全作品数、およそ二百五十を数える。

 十四歳で単身、武者小路実篤の主宰する生活と芸術の理想郷「新しき村」に飛び込んだという、ロマンティシズムと高い志が、その多作を支えていた。それは滋賀県に住み、病がちな身をいといながら後進の指導にあたっている今も失われていない。