#03 新入生紹介用文 くりこま　悠

＃０３　新入生紹介用文（情研部バージョン）

偶には縦書きにしてみたかったりする事がある
多少読み難いだろうが、何とか我慢してほしい。
これを書いている作者自身が、一番大変なのだから。
そんな感じで、今回も「ＳＴＡＮ的実験小説」を始めることにしよう。

　今日も平和そうな雰囲気の、神奈川県立五ツ川高校。
思わずあくびが漏れてしまう、昼休みの時間帯に、情報研究部部員である「立石　透」と「高坂　真樹」は、昼食を済ませて図書室に来ていた。
別に図書室に来ることに、意味なんて存在しない。ただ単に、思いつきだったりする。
高校の図書室って言うのは、ピンからキリまで、様々な本があったりして面白い。
海外文学や図鑑・全集の類。雑誌や小説や、果てはＴＲＰＧのルールブックまで。
こんなに揃っていると、当然ながらオカルトチックな本なんかもあるわけで…
「ほらほら。今や廃れた『ノストラダムス本』♪」
「面白がるな」
透は、「一九九九年七の月」とか言いたげなオカルト本…俗に「トンデモ本」と
呼ばれる部類の書物を持って、素で喜んでいる真樹にツッコミを入れた。
どうでもいいことではあるが、こういったオカルト本に突っ込みを入れている書籍
まであるから、高校の図書室は油断が出来ない。
「だってほら。結構平気で『米ソが競合して』とか書いてあるし、ネタとしては最高
　だと思わない？」
真樹は真顔で言い続ける。目だってマジだ。
「確かに、ネタとしては面白いかもしれないな。
　…ちょっと貸して」
「こらこら。立石まで高坂に汚染されるな！」
透の背後から、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
「何だ。神田か…」
透は、背後に立っている情報研究部員「神田　隆介」の方を向いて、そう一言呟いた。
「あれ？何だかんだ言って、三年メンバーはほぼ全員集合？」
更に、情報研究部を取り仕切る、部長の「城之崎　涼子」も乱入してくる。
「お前らさ。もうちょっと別の行動パターンってのは無いわけ？」
隆介が、透、真樹、涼子の三人に言うと、一斉に「あんたに言われたく無い」という返事が返ってきた。
「まぁ待てよ。俺と真樹に関しては、事情って言う物があるんだよ」
透がそう言うと、真樹は
「透君、最近になって、やっと下の名前で呼んでくれるようになったんだよ」と、
涼子達に話しかけた。
「へぇ〜。立石君、ようやくそんな段階まで行ったんだ」
「この調子だと、堂々とデートできるようになるまで、あと三ヶ月はかかるな」
２人は感心したような口調で、素直な意見を述べた。
（テメェら。人の話を聞けよ…）
透はそういうニュアンスを含めた咳払いをして、話を元に戻した。
「以前さ。昼休みに暇だったから、真樹と外でキャッチボールをやったんだ」
「ふんふん」
「恋人と２人でキャッチボールか。良いねぇ、微妙だけど。俺もそんな青春して
みたいよ…」
「神田君？私で良ければ付き合うけど？」
情研部最強の女子生徒が、割と乗り気で言い始める。
「いや。遠慮しておく」
冷や汗をたらしながら誘いを断る隆介の態度に、涼子はぶーたれている、。
「あ〜。話し続けて良いかな？」
透が隆介達に問う。そろそろ声が震えてきている。
「そしたら、真樹が大暴投をやらかして、二年の教室の窓を割っちゃって…」
「…痛いな」
「そこらへんのアフターケアをどうするかが、立石君の甲斐性って奴だよね」
何か言う毎に私的な感想を述べる２人。
「ｺﾞ,ｺﾞﾙｧ…」
「で、透君、キャッチボール恐怖症になっちゃって…」
そろそろキレかけている透を見て見ぬ振りして、真樹が更に補足説明を加える。
「う、うぐぅ」
「そもそも真樹ちゃんとキャッチボールをしたっていう時点で、危機管理に対する
　考え方が成ってないよね」
涼子が透の行動に指摘をする。
真意である。こんな不幸を背負った少女と、リスクのある運動をすれば、考えられる限り最悪な状況になりそうなことぐらいは、誰でも考えつきそうなものだ。
「そんな事をする暇があったら、校内中のゴミを回収して、幸運パラメーターを回復
させればよかったのに…」
「早い話が、立石の全行動が間違えてたと」
ブチッと、何かが切れたような音がしたが、その音も２人の会話でかき消された。
「テメェら！人の話を聞け！」
「図書室では静かに！」
フォントにして４ポイント差。物静かだが、他を圧倒する声が、涼子の口から
発せられた。
「あー、そのー、ちゃうねん（通算３回目）」
「大阪はもういい」
かろうじて声を出した透に対し、隆介が一言言い放つ。
「そうだ。そういえば、雑誌の〆切が迫っているっていう事実に気が付いた人、
　この場で挙手」
思い出した様に、涼子が言った。
図書室に置かれている、自分たちの汗と涙の結晶を見て、ふと〆切のことを
思い出したらしい。
とりあえず、その場にいる全員の手が上がった。
「それじゃ、そろそろ原稿が終わりそうな人は挙手」
手を挙げたのは、涼子だけだった。
「ていうか、一文字も書いた記憶が無いって言う人、挙手」
透がそう言うと、今度は涼子以外の全員が手を挙げた。
「あ、あんた達。いい度胸してるわね」
「まぁ、作者が作者だから」
絶えず反抗しなければ生きていけない、悲しき生物。いや、作者じゃなくて透達が。
「あれ？先輩方、勢揃いで…」
不意に後から声が聞こえてきた。
声のする方を向いてみると、一見するとイケメン君…もっとも黒髪で長髪で眼鏡を
掛けているところに不安が残るが…な男子生徒と、金髪が右目を隠している姿が
印象的な英国美人な女子生徒がペアで現れた。
共に情研部の新入生。喜ぶべき事なのだが、何しろあんな事件を起こした
情研部に入部希望だった奴らである。しかも、自らの意志で。
仮入期間当時、彼らがやって来た当初、真樹と透は一緒になってはしゃいでいたが、良識人神田は頭が痛くなり、善良市民城之崎は現実逃避をしてきた。
『だからって、ここに来ることはないでしょ！』とは、イラスト部「諸町 冴子」の弁である。
情研部とイラスト部の溝が（上層部でのみ）広がっているが、実在するメディア部とアニメーション部は非常に結託しているので、新入生は安心して欲しい。
ブレーキの逝かれたフェラーリ・テスタロッサが狭い交差点に突っ込んだぐらいの
勢いで話が逸れてしまったが、幸いにも作者はホンダＮＳＸの方が好きなので、
やれやれといった所で話を元に戻すことにする。
ハチロクも良いけど、それならシルビアの方がまだ現実的だ。
さて、新入生である。美少年の方は「岡村　誠二」。成績優秀。スポーツ万能。
言うこと無しなのだが、不幸なことにオタクである。しかもアニメから路線バス、
はたまた国際情勢まで、無駄に知識が豊富なのでタチが悪い。
「社会の課題なんやけど、貿易摩擦って結局の所なんやの？」などと聞かれると、
「米国を成瀬川。日本を景太郎として…」という一文から始まるからたまらない。
一方、英国美人の方である。名は「エレメント・ボーダー」
こっちは交換留学生という名目で日本へやって来た、筋金入りの日本かぶれである。
まず、普通に日本語を喋る。その為、パッと見「単なる色白で金髪の女子高生」に
見えなくもない。近くで彼女の青い目を見て、初めて外国人であることに気が付くという人も多い。先日の頭髪検査でも、何を血迷ったか高柳氏がチェックを入れ、後で
（高柳氏が）死ぬほど恥ずかしい目にあったという驚異的な伝説を残したそうだ。
次に、アニメを日本の誇るべき文化だと思いこんでいる。確かに否定はしないが、
「こころん萌え〜」とか言ってる時点で、誰１人として止めなかったのは問題だろう。
最後に、彼女が日本へやって来た最大の理由。それは、本人曰く「スイカ割りでしょ。
　金魚すくいでしょ。花火でしょ」だそうだ。
「でも日本人は面白いですね。電車の定期券を割るんですか？」
「それ違う！」
ここでいきなり突っ込みを入れてしまった時点で、彼女のお守り役は誠二に決定した。
ちなみに彼女は茶道部と掛け持ちしていて、日本の侘び寂びを勉強している。
自分の好きなことに関しては、勤勉なのだ。立派な姿勢である。
この２人は妙なところで気が合うためか、よく一緒に行動している場面が見られる。
「何やってるんですか？」
「いや。別に理由があって来たんじゃなくて…」
「ただ単に暇だったから、暇潰しに…ね」
誠二の問いに、透と真樹が答える。
「おお〜。流石は五ッ高最強文化部カップル」
「息が図ったかのようにピッタリ」
そういう答えを返す誠二達も、充分過ぎるほど息がピッタリなのだが…

午後の授業が終わり、誰かが言った。
「上大岡行くべ」と。
「…立石君。部活は？」
涼子が指をポキポキと鳴らしながら、透に近づく。
「部活なんてタダの飾りです。偉い人には、それが判らんのです」
「部活とモビルスーツの脚を一緒にしないでほしいんだけど」
「そうだよ。モビルスーツの脚って言うのは、陸戦用だと重要なパーツだぜ？」
何処から沸いたのか、いつの間にか透と涼子の間に隆介が立っていた。
手にはカードが握られている。
「立石―。イニＤやりに行こうぜー！」
「オッケー！俺のＦＤに勝てるかな？」
「ぬかせ。この手塩に掛けたR32湾岸平本洸一仕様で返り討ちにしてやる」
「その前に、アンタ達２人を藤原拓海仕様のハチロクで粉砕しちゃうけど？」
涼子がこれでもかと圧力を掛ける。
「ＦＤやR32がハチロクに負けたら、みっともなくてゲーセンに近づけなくなる
　よねぇ？」
「それじゃあ、そのハチロクを、アイカ仕様のEG-6で玉砕…」
いつの間にか、真樹も話に加わっている。
そして…
「情研部の奴ら、何か凄くマニアックな話してないか？」
「ああ。車種も番号で言ってるし…」
「拓海はともかく、洸一やらアイカやらって誰だっけ？」
通りすがりにそんな事を喋って行く、非オタク系な方々。
こうして情研部はマニアックな集団と認知されていく・・・
「仕方がない。こうなったら、誰が最速を決める必要があるだろう」
「知りたいことはただ一つ。誰が一番速…」
隆介が湾岸的名ゼリフを発しようとした瞬間、後頭部を鈍器のような物が襲った。
詳しい状況は不明だが、近くにソフトボール部員がいて、涼子がそのソフトボール部員から、バットを一本借りたという、それなりに有力で説得力のある証言がある。
「さぁ、部活行こー！」
ぐったりとした隆介を引きずりながら、涼子は元気良く歩き出した。
「勝者はいない。降りる者と残る者。ただそれだけ…」
真樹がポツリと呟く。
「俺的には、明らかに涼子が勝者にしか見えないんだけどな…」
透もまた、真樹に答えるようにポツリと呟いた。

「原稿、終わりましたよ」
「ああ。お疲れさん」
情研部の不幸な被害者…もとい、新入部員の一人である「瀬名　真弓」が、
透に原稿を差し出した。新入部員なら誰でも一度は書かされる、自己紹介文って奴である。
「どうでしょうか？」
「え。あ、ああ。いいんじゃない？」
心配そうな顔をしている真弓に見つめられて、透は思わず赤面しながら頷いた。
当然ながら、真樹の視線が痛いぐらい突き刺さっている。
真弓は、今回の新入部員の中で…というより、情研部で唯一マトモな人間である。
新入生代表挨拶を務めたのを皮切りに、委員長への立候補や奉仕活動への参加など、
暇があると何かしている、そんな人間だ。
ただ、人には一つぐらいは欠点があるもので…
「文章が…なんていうか…」
某ギター演奏ゲームにヴィジュアル系という新ジャンルを引っ張り出し、
ガールズポップスをデスメタル調に編曲し、もはや歴史に残ると言われても過言ではない、自称キャプテンロックを名乗る某最強サラリーマンコンポーザー。
彼女の書く文章は、そんな感じであった。
一言で言うと、２ｃｈ的だということだろうか。
彼女の顔を見てみる。真面目一辺倒の、委員長タイプの女の子の顔だ。
文章を見てみる。なんというか、明日に向かってＴＲＹ！（意味不明）
一体、何処からこんな文章が沸いて出てくるのだろうか。
「あのさ。何か、イヤなことでもあったの？」
「いや。別に？」
彼女はきょとんとした顔で答えた。イヤなことが無くてコレである。
透は頭を抱えた。
「透君、大丈夫？」
「ああ。なんとかね…」
ちなみに、涼子はイラスト部に現実逃避をしてきている。
つい先程、真弓の使っていたパソコンのディスプレイを覗いたらしいが…
今一号館四階に行けば、情研部部長とイラスト部部長の戦いが観られるだろう。
きっと武山は、二人の間に挟まれて、溜息でも吐きながら、必死にイラストを書いているに違いない。
「あいつ、俺には『部活に来い』って言っておいて、何考えてるんだか…」
「人手が欲しかっただけじゃない？」
逆に隆介は、生活の為にバイトという過酷な試練を受けなければいけないという理由で、部活には来ていない。
一人暮らしは何かと大変らしく、「とっととちゃんとした職に就きたい」らしい。
で、残ったのは、透と真樹と新入部員数名。当然、放って帰るわけにも行かない。
「なぁ。何でそろそろ〆切だって言うのに、こんなに三年生がいないんだ？」
透が力尽きたように、そう呟く。
「確かに。誰かもう一人ぐらい来て欲しいよね」
真樹は溜息を吐きながら頷いた。
と、その時、重い鉄製のドアが開いた。
パソ研部部長兼情研部部員「金井　哲史」が現れた。
「コマンド？」
「知るか！」
…よりによって、一番役に立たないのが来るとは思わなかった。
透の神経がズタズタにされていくのを横目に、哲史は適当な椅子に座った。
「ああ、もう〆切前だっけ。大変だねぇ」
「他人事じゃないぞ。アンタだって、自己紹介文を書かなきゃいけないんだし」
透の一言で、哲史の周り半径二メートルの時が止まった。固まったともいう。
透は二メートル八センチの所にいたのでセーフ。
真樹は一メートル九五センチで、惜しくもアウトである。
「どうした？」
「いや、一生懸命情報を検索したんだけど、そんな事を言われた覚えが無くて」
ようやく動き出した哲史は、後頭部に手を当てて、そう言葉を発た。
「そんな馬鹿な。確か、真樹に伝えとけって言…」
ここで透は、真樹も凍っているという事に気が付いた。
冷や汗をかきながら、半笑いである。
「言葉に出す必要はない。伝えるのを忘れたな？」
真樹は大きく頷いた。立派に悪いことである。
「金井。とっとと一ページ分、自己紹介文を書くんだ。いいな。これは命令だ」
「はいはい」
哲史は手近なＰＣの前に座り、ワープロソフトを起動させた。
そして透は…
「下手に外に出るのも危ないし、蛍光灯の下は危険だし…」
あちこちを見回しては、安全な場所を探す。
狭い部室では、一体どのような惨事が起こるか分かった物ではない。
と、その時。警戒している透に電話がかかってきた。どうやら、涼子かららしい。
「はい、もしもし？」
『あ、立石君。今大変なの。真樹ちゃんと大急ぎで、部室から武器になりそうな物を
持ってきてくれない？』
「…おかけになった電話番号は永久欠番です」
『もう一度だけ言うね☆　とっとと武器を持ってきて』
「…分かった」
透は電話を切った。
「どうしたの？」
「そうか。こういうパターンもあるんだな。なるほどなるほど…」
透はそう呟くと、ふと周りを見渡した。
「ねぇ、透君？」
「いや、何。真樹の不幸のパターンに、人災ってパターンもあるんだなと思って。
冷や汗が、滝のように流れ落ちる。これを登り切ると龍になれるという噂もあるが、
所詮噂は噂だし、仮になれたとしても、大した龍にはなれないだろう。
透は哲史の首根っこを掴むと、新入部員達に告げた。
「今からイラスト部の方へ行って来るけど、何かあったら、コイツに聞いてな」
「あ。俺も行っていいですか？」
「私も〜」
誠二とエレメントが、脳天気に挙手をした。
（確かに、こいつらには、この部とイラスト部の関係を教えておいた方が良いかも）
「それじゃあとりあえず、皆、俺に付いてきて」
ぞろぞろと付いてくる情研部員。
（…こんなに居て、作者は管理しきれるのか？）
結論からいうと、難しい。難しくても、漢に二言はないのである。
ついでだからパパッと紹介しておこう。
「高柳　康介」。あの高柳教諭の甥っ子である。
何故情研部に入ったのか。動機や目的は一切謎である。
分かっていることは、大してコンピュータの（というより機械全般の）扱いが苦手
だということである。
んでもって、最後に「竹内　雄太」。
そうだな。一言で言うなら、とってもラッパーな人。
会話するときも、常にリズムをとって喋る癖がある。その癖、芸術科目は美術を選択するという、よく分からない奴である。
駆け足で紹介してしまったが、気が付いたらページが無くなっていたのだから仕方があるまい。あと４ページでオチを付けなくてはいけないわけだし。
「表向きはいい雰囲気のイラスト部と情研部だけど、上の方…もとい
裏の方ではどんな確執があるのか、じっくりと見てもらうからね」
透は物静かに呟くと、ゆっくりとイラスト部部室のドアを開けた。

ドアを開けると、イラスト部「武山　宗一」が手を振ってきた。
「どんな感じだい？」
「…あんな感じ」
透の問いに、宗一が簡潔に答える。
ふと見ると、涼子と冴子は箒を片手に、激しいバトルを繰り広げていた。
きっと見物料だって取れるだろう。
「まぁ、なんだー？つまり、情研部とイラスト部っていうのは、一部でああいった
確執という物があって…」
透が解説しようと振り返ると、既にそこには一年生の姿はなかった。
気が付けば全員が（勿論、真樹や宗一も含めて）、二人が戦っている目の前の特等席に仲良く座っていたのだ。
「両者とも、いい動きしてますね。プロでもそうそういませんよ」
康介が素直に感心しながら分析する。
「情研部もイラスト部も、格闘技に精通しているっていうのが部長の条件だからね」
宗一が消しゴムを掛けながら、そう答える。
「なんていうか、ＳＥの素材になりそうなほど、いい音が響き渡ってるし…」
雄太はそう言いながら、手持ちのＭＤウォークマンでサンプリングを始め、
誠二が「二人とも、動きが香港映画でよく見られるような感じだね」と宣い、
その周りで真弓とエレメントが頷く。
真樹は何処から取り出したのか、スナック菓子を食べながら、じっくりと
観戦している。どうしようもないほど、文化部らしくない光景であった。
「ま、こういうのは仕方がないかな」
透はそう言って、真樹にスナック菓子をねだってみた。
渡されたポテトチップを囓りながら、ぼーっと二人の戦いを観戦する。

数分も経たないうちに、周りから続々と噂を聞きつけた人間が集まり、イラスト部はファイトクラブ状態に陥っていた。
部室の前には急遽チケット売場が設営され、そこにはくじ引きで負けた透が担当することになった。
本当のところ、負けたのは真樹であったが、「ここでどうするかが、彼氏としての
甲斐性だよね」という一言で、渋々透がチケット係となったのである。
「俺だって見たかったのに。やっぱり、不幸が電話一本だけなんて、虫が良すぎると
思ったんだ…」
透はそう言って、頭を掻きむしった。
「すいません。チケット二枚」
透は涙声で「はい。一二〇〇円になります」と言った。
別に混乱しているのは、部室の外だけではない。
「おせんにーキャラメルー、コーラは如何ですかー？」
飲食物の販売。
「一枚が二枚、二枚が四枚…」
油売り。
「へぇ。朝剃って来たんですけどねぇ。きちんと剃れてますねぇ…」
ひげ剃りのＣＭ撮影。
「警察がー僕のことー、キミとー二人追いかけてるー♪」
ストリートミュージシャン。
「グッモーニーン。ウィッキ―でーす…」
昔、何処かのニュース番組に出演していたような、朝の辻斬り黒人英会話教師。
ハッキリ言って、何でもアリなのであった。

どの位時間が経過したであろうか。
涼子＆冴子は、ふと周りの様子を伺った。
両者とも戦いに夢中で、ギャラリーが出来ていることに気が付かなかったらしい。
気が付けばフェンスで囲まれ、熱狂的な観戦者が列をなし（その中には生徒会長の姿も含まれていた）、盛り上がりは最高潮に達していた。
「一時休戦」
涼子は後に束ねていた髪を、一気に振り解いた。
どっかのドラマに影響されたという情報もある。
「同感」
冴子は指を鳴らすと、フェンスを一気に破壊した。

彼女らがフェンスを全て撤去する頃には、人はほとんど消え去っていた。
なんとも逃げ足の速い連中である。
地面にはチケットや、一二八枚に切り刻まれた和紙。紙コップやバンドスコアや
英会話の教則本に紛れて、宗一が転がっていた。
こけて踏まれて潰された挙げ句に、逃げ遅れたらしい。
「痛たたたた…」
むくっと起きあがった宗一の背後で、涼子と冴子がどのような体勢を取っていたかは
推して知るべし。
後日談

校内雑誌「ＳＴＥＮ」は無事刊行された。
思いつきで書かれたコラム「五ツ高最強女子高生を考える」は、イラスト部での
「情研部ＶＳイラスト部、仁義無き戦い事件」の影響もあって、すこぶる好評だったと、後の五ツ高史に記録されているという。

あれから一週間。
病院通いの達人こと「武山　宗一」は、今日も学校に来ていない。
一部では、宗一が卒業できないという噂も立っている。
□ ■□後書き□■□

どうも。秋名の走り屋ＤＪくりこまです。

そろそろアニメーション部からの反応が怖くて仕方がないのですが、それなりに好評だとかいうこの小説。皆、騙されているよ（笑）
今回は、たまに友人連中から寄せられる質問に答えていきたいと思います。

Ｑ１／タイトルの由来は？
Ａ　／ギタドラの曲「ＨＡＰＰＹ ＭＡＮ」を逆さまにしただけです。

Ｑ２／モデルになった人はいるの？
Ａ　／殆どいませんが、冴子に関しては古い友人から、性格と名字を拝借しています。

Ｑ３／涼子のキャラクターが宗村氏と被っているという意見がありますが？
Ａ　／涼子には特にモデルはいません。
　　　あの方には、後に別のキャラクターとして登場してもらう予定です。
　　　
Ｑ４／次の話がとっととっとととっとっとと見たいのですが。
Ａ　／�僑庁悗里笋蠅垢�です（謎）　それはさておき、
　　　http://freett.com/kurikoma/に最新版が掲載されることがあります。
　　　もしよければ、覗いてみて下さいまし。

…というわけで、まだ話は続きそうです。
頼みますから、付いてきて下さい（汗）
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