#02:僕達の未来略奪大作戦 Vol.2 くりこま 悠

#02:僕達の未来略奪大作戦 Vol.2  〜新入生オリエンテーションの陣〜
注:この小説はフィクションです。
実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
ましてや六ッ川高校やメディア研究部やその他の部活などとは一切関係ありません。

あらすじ
2002年4月。神奈川県立五ツ川高校生徒会は、校内のほぼ全ての文化部に
「新入部員が6人未満の場合は予算25%カット」という非情な指令を下した。
これを受け情報研究部は、独自の作戦で新入生獲得プランを繰り出す。
だが、結果は1名(しかも3年)を確保しただけで、進展は一切無かった。
そして物語は運命の日「新入生オリエンテーション」へと移る。

3号館2階  情報研究部部室
「こーさか、悪い。ティッシュを取ってくれるか?」
「あ、は〜い」
情報研究部書記担当「高坂 真樹」は、彼氏であり、副部長である「立石 透」に
ティッシュの箱を手渡した。
部室には、この2人以外誰も居ない。他の面子は体育館行きである。
「花粉症?」
「かふん“ちょー”」
心配そうに聞いてくる真樹に、透は「ちょー」を強調しながら答えた。
「くしゃみする時に、どっかのキャラみたいに『へーちょ』って…」
「器用だね」
「…冗談だよ」
素直に聞き入る真樹に、透は申し訳なさそうな顔でツッコミを入れた。だが、
「…へっ、へーちょ」
透はそう言って、ティッシュ箱を落とした。
素でくしゃみだったらしい。唖然とする真樹。
「…と、透君?」
「…ちゃ、ちゃうねん」

「ちゃうくない!」
同時刻。体育館の端っこで、情研部部長「城之崎 涼子」と「神田 隆介」が
お喋りをしていた。ステージ上では、運動部が何やら自己アピールをしている
(バスケ部かバレー部か、とにかくボールを使う部らしいが、そんなステージ上での
 出来事に、2人は興味など示すはずもない)。
オリエンテーションが始まってから45分。さすがに1年生も眠たそうな顔をしている。
「絶対変だって!何で文化部って、こんなに差別される対象になったんだろう…」
「運動部って学校的には自己アピールになるから、そっちに色々と気が回るっていうのは
あるんだろうな…ほら。例えば、陸上部が全国大会行きましたっていうのと、パソ研が
IT・簿記選手権で全国3位入賞しましたっていうのとじゃ、前者の方が良さそうだろ?」
涼子の感情任せの発言に、隆介は冷静に受け答える。
「でもさ、ここって情報系の学校だから、後者の方が説得力無い?」
涼子が更に反論する。
「そういう考え方もあるか。というよりこの学校は、そういう考え方の方が自然だよな」
「それにしても、部員自らパソ研で例えるなんて、世も末ね・・・
情研部だって昔は、あちこちのコンテストで入賞するほどの、良くできた部活だった
のに…」
「良くできた部活か〜」
隆介は苦笑しながら、涼子の発した言葉を反芻した。
不意に涼子の視界に、ステージからの流れ弾が飛んでくるのが映った。
「よっと」
涼子は最小限の動きでボールを避けると、足下に転がっているボールをステージに
投げ返した。
「慣れてるな。ザ・警察官か、モーキャップ・ボクシングか…」
涼子的に、「あしたのジョー」なんて死んでも言えるわけがなかった。
彼女だって一応女の子だ。「彼女は段平パッドを本気になって叩いている」と思われるの
は、流石に恥ずかしいのだろう。
「それにしたってノーコンね。まるで私に投げてきたような勢いだし…」
「そうだな。第3者への命中率は大きそうだ」
隆介は言葉が言い終わらないうちに、少し大きめに横に避けた。
再びボールが飛んできたのである。
「ほらほら。ちゃんと狙え〜」
隆介はそう言って、ステージ上にボールを投げると、ステージ上でパフォーマンスを
見せる選手、それも特にエースと呼ばれる人間に直撃した。
崩れるエースの姿。唖然とするギャラリー。
そして…
「ちょ、ちょっと待て。事故だよ、事故!!」
「うるせぇ!!」
隆介に向かってボールを投げる部員達。
さすがに1年生からも、ざわめきが聞こえてくる。
「大波乱の予感ね…」
涼子は飛んできたボールの1個を手に取ると、呑気に一言そう言った。
「もう既に大波乱だよ」
投げてくるボールを全て避けきった隆介は、DDR3回分の運動量で息を切らせていた。
「と、とりあえず謝罪の意を込めて、担架でエースさんを運んでくるか…」
隆介はそう言って、ステージ袖に移動する。
「それじゃ私も…」
涼子もそう言って、隆介の後をついていった。
ちなみにこの時、ステージ袖で生徒会長が頭を痛めていたのは、余り知られていない
事実である。

「体育館の方が、何か騒がしくない?」
「どうせ何処ぞの馬鹿が、騒ぎを起こしたんだろ…」
透は真樹の問いに答えた。
透の手には部の宣伝ポスターが。真樹の手にはセロハンテープが抱えられている。
「ポスター、あと何処に貼っておく?」
「そうだな。もう大体貼っちゃったし、残っている場所は何処だ?」
透は指を折りながら、貼られていない場所を検索する。
と、その瞬間、2人の目の前を、担架を担いだ2人組が横切っていった。
「あれ?神田に城之崎。どうしたんだ?」
「いや、ちょっと急患が出て… じゃ、急いでるから…」
涼子はそう言って、2号館の方へと走っていった。
「そうか。何処の馬鹿だと思ったら、うちの馬鹿達が絡んでたんだね」
「お前、さり気にキツい事を言うな…」
あっさりと言い切った真樹に対し、透は毒突いた。
「もう大方貼っちゃっただろ。とっとと部室に帰ろうぜ」
「はいはーい」
透はそう言って真樹を急かす。
何処か気の抜けた、春の或る日。

「ところでさ、ふと気になることがあるんだけど・・・」
イラスト部諸町が、同武山に耳打ちする。
「どうしたんだ?」
「運動部は細かく時間が組まれているのに、何で文化部は『文化部』と
完全にひとくくりにされてるの?」
諸町の指摘を聞いて、武山は手持ちのプリントを確認する。
藁半紙には確かに『文化部』というくくりで、13分程の時間が取られている。
「文化部は全部で13個だから、1個当たり1分って事だろうな」
武山はそう呟くと、1人で納得した。
「いいんだけど、これだと順番が分からないんじゃ・・・」
「これは噂なんだけど・・・」
後からいきなり、パソ研(&情研)金井が口を挟んだ。
「早い物・・・勝ち?」
諸町が静かに呟くと、金井は静かに頷いた。
「今なら情研部がいないだろ?
だから、その分の時間をイラスト部とパソ研で略奪・共有してしまえば・・・」
「・・・割り当てられる時間は1分30秒になる」
「悪い条件じゃないよねぇ?」
金井と諸町が悪い相談をしているのを横目に、武山は溜息と共に一言
「もしかしたら俺、また指導室行きかなぁ・・・」
…合掌

「こ、これは仕様作戦ですか?」
ステージ袖で副生徒会長「桜井 千鶴」が、生徒会長「沢口 武」に言う。
「その通り!本当にやる気のある文化部を見定めるには、これが最良の
 判断材料なのだ!」
沢口は言い切った。
「凄い。会長が強気の発言。しかも標準語で・・・」
「体育館の裏の方で、ただ出番を待っているだけの文化部は駄目だという事だな」
「・・・裏?後ろの方じゃなくて?・・・もしかしてそれって、何処かの方言なんですか?」
桜井は顔をしかめる。
「・・・野田弁」
「の、野田って何処ですか?」
「千葉県の北端に位置する、醤油の名産地の事さ」
沢口はしみじみと語りだした。
「ちなみに不用意に野田弁を発言すると、田舎者だと思われるから注意しよう」
「・・・それにしても、明らかに穴埋めとしか思えない会話ですね」
桜井は溜息を吐く。
「・・・言うな」
沢口が答えた。

「あ、ホントだ!!」
保健室にて、涼子はプリントを読みながら、そう叫んだ。
「文化部は全部含めて13分。早い者勝ちで乱入可。
 そういう話が流れてるから、早めに体育館に戻った方がいいぜ」
エース氏はベッドに横たわりながら、涼子達に忠告した。
「だけど、何でそんな事を俺達に?」
「俺の顔を忘れたか?」
「あ!そういえばお前は、俺達と一緒に情研に入ったものの、
 『俺、バレーを捨てられない』と言い残して、結局退部した佐藤!!」
「アンタのその説明的口調、変わらないな・・・」
隆介に向かって、佐藤はガッツポーズを決めた。
「さぁ、早く行くんだ。新入生がお前達の事を待ってるぜ」
「ああ、分かった!!」
「佐藤君、ありがとう。」
隆介と涼子はそう言って、保健室から立ち去った。

何か複雑なドラマが巻き起こっている保健室の様子はさて置いて、
舞台を再び部室へと戻そう。
「DTM用の台は、これでいいんだっけ?」
「CG用はこいつで、ゲームとDTPは遅い台でも大丈夫だな」
透や真樹が慌ただしく走り回っている中、突然部室のドアが開いた。
「ハイサーイ!!」
ドアから入ってきたのは、パソ研の元気印こと「松下 知美」である。
「え、えーと、何か用か?」
透は思わぬ来客に唖然としながら、松下に用件を聞いた。
「先輩、ノリが悪いですよ。こういう時は『何かYOか?』っていう感じで、
 リズムに合わせるような感じで・・・」
松下は右手でターンテーブルをスクラッチする仕草を見せた。
「・・・で、用件は何?」
段々と苛立ち始めている。
「いや、別に。パソ研は用意する事が少ないし、暇だから来てみたんですけど・・・」
「帰れ」
「猫の手を借りたいと思いませんか?」
「猫の手に足を引っ張られたくない」
猫の仕草を真似る松下に、透は冷たく言い放った。
「そんな事言っても、暇なんですよぉ。部長も副部長も体育館行っちゃって・・・」
「だからって、ここに来る必要はないだろ?
 どうせだったら、イラスト部とかの方へ・・・」
「ハイサーイ!!」
今度は武山が突貫してきた。
「時間があるから、遥々体育館から飛んできたYOー!」
「帰れぇ!!」
透は武山と知美に対して、一言そう言い放った。
「透君。そうやって怒ってばかりいると、体が持たないよ・・・」
真樹は透の肩に手を置くと、そう呟いた。
事実である。ハイテンションなキャラと対等に戦おうとしても、それは無理な話だ。
「そうだよ。怒ってばかりで良くないよ。カルシウム足りてないんじゃない?」
「あ、先輩。もし良かったら、ニボシ食べます?ニボシ」
松下は何処からともなくニボシを取り出して、ポリポリと食べ始めた。
「牛乳は?牛乳」
武山も何処からともなく牛乳を取り出して、ゴクゴクと飲み始めた。
ちなみに部室は飲食禁止だったりする(汗)
「・・・もういい。黙れ」
透は完全に呆れ返ってしまった。
「あ、そろそろ体育館に行かなくちゃ。じゃ」
「あ、それじゃ私も…」
荒らし…もとい、嵐のような出来事であった。
「良いことあるよ、ジェットにんぢん♪」
「…ねぇよ」
何やら口ずさんでいる真樹に対し、透は力なくツッコミを入れた。
「ふぅ。とりあえず、とっとと準備をしなきゃ…」
「ハイサーイ!!」
今度は涼子が登場した。
「…あのさ、何?『ハイサーイ!!』って、文化部の合い言葉か?」
透は思わず、涼子にそう聞いてしまった。
「皆、研修旅行での沖縄の体験が忘れられないだけさ…」
涼子はそう言って、半年も前の記憶を反芻し始めた。
「青い海、白い砂浜、その先に真っ青な空〜♪」
「…お前なぁ。素で感動したって言う作者ですら、そこまで影響されなかったんだから…
 大体、今回は前回のペースから考えると、絶対にページが足りなくなるんだし…」
何やらドリームな感じの涼子に、透はツッコミを入れる。
ここまで現実的な事を言うのは、どうかと思うのだが…
「で、話を戻すね」
「戻すような話なんて、初めからしてないだろ…」
「…いいから。で、ある筋から良くない噂を聞いたから、君達2人にも体育館に来て
 欲しいんだけど…」
「それは権利?義務?ていうか強制?」
「限りなく強制に近い、半強制♪」
涼子は親指を立てて、にこやかにそう言った。
…逃げられない。
透はそう確信し、素直に受諾した。

「あのさー、質問が有るんだけど…」
「ん?何?」
金井の言葉に、諸町が反応する。
「軽音部はさ、何を考えて舞台に立っているんだい?」
「っていうと?」
「1分しか割り当てられていない時間内に、部の紹介とライブをどうやって
こなすのかなって…」
着々とセットアップされていくドラムセットやアンプなどを見ながら、
金井は素直に諸町に聞いた。
やがて準備が終わると、ドラマーがスティックでリズムを取り始める。
昔のアニメで聴いたことのあるメロディーと共に、歌を歌い始める軽音部の面々。
曲は「HI-STANDARD」で「MY FIRST KISS」。
そして部長とおぼしき人間が壇上で説明をする。
だが、残念ながら、その声もボーカルにかき消され…
『It i私達y first ki軽音chは(chu!)週s wi回のyoースで活動し…』
「悪い。歌詞も説明も全然聞こえない…」
「同じく」
歌詞が英語の時点で初めから聴く気はないのだろうが、金井は思わず呟いた。
それに諸町も同意する。
そんな中、武山だけが1人「初めてのチュー♪」と口ずさんでいた。
そして…
「ゲッ!一曲丸々歌いきるつもりだ!!」
金井は思わず叫んだ。この曲の所要時間は3分強。
「軽音部は、あのスケジュールを見てたのかしら…」
「見てたら、あんな無茶なことをしなかったろうな…」
文化部に割り当てられた時間は、残り10分弱ということだ。
「軽音部の馬鹿…」
ほぼ全ての文化部員が、同時に呟いた。
「あいたぁ〜。もう始まってるじゃない…」
体育館後方から、気の抜けたような声が聞こえてきた。
情報研究部フルメンバーである。
手にはCD-R。頭には「情報魂」と書かれたハチマキ。そして何処から持ってきたのか、「来たれ情報部員」というノボリを付けたリヤカー。
ハッキリ言って、ウケ狙いも良いところである。
あまりの事で、体育館内にいる全ての人間が呆然としている。
「は、早く!ステージを固めて!!」
諸町は急いで部員に指示する。
「情報研究部、突貫しま〜す!!」
左から透・真樹ペアが。右から涼子が。そして中央のプロジェクターに向かって隆介が
突撃していった。
壇上では、まだ軽音部が演奏している。
「させるかぁ!!」
諸町が涼子の前に立ちはだかる。
「やっぱり私達、反りが合わないみたいね・・・」
「お互い様でしょ・・・」
情報研究部の部長たるもの、ありとあらゆる格闘技に精通していなければならない。
しかし、それはイラストレーション部にも言えるのである。
(こいつ・・・)
(出来る!!)
いわゆる、先に動いた方が負け的な雰囲気である。
先に仕掛けてきたのは、涼子の方だった。
涼子のストレートパンチを諸町が紙一重でかわし、諸町のハイキックを涼子がしゃがんで避ける。
ハイレベルな格闘戦であった。
「なかなかやるわね、冴子。だけど、貴女は1つ、忘れていることがあるわ!!」
「なんですって…」
涼子の視線の先、冴子の遙か後方では…

「うちらの部って、本当に部長の権限が凄まじいよな」
「ああ。お陰で、俺達が迷惑だ」
透と武山が話し込んでいる。
「あの2人って、仲が良いんだか悪いんだか」
「良いんじゃない?城之崎ってどっちかというと、『喧嘩するほど仲が良い』的な奴だし…」
透が苦笑しながら武山に話す。
「それって、城之崎と神田でも言えてるんじゃない?」
「…え?ああ。あれは、城之崎が一方的にっぽいけどね」
冷や汗を垂らしながら苦笑する透の視線の先、武山の少し後方では、一応この物語の
主役である真樹が、ステージ上にとててと歩いていく姿が見えた。
「どうかした?」
「イ、イヤ、ベツニ。ナンデモナイヨ…」
透はそう誤魔化すと、別の話題を振り始めた。
「そ、そうだ。そういえば、ギタドラの『コンサーティノ・ブルー』だっけ?
あれって凄く難しくない?」
「俺、それ以前に『デイドリ2』がS判定出せねぇよ。
BASICでも結構難しい曲だし、本格的にドラムやらないと、技術って身に付かない
よなぁ…」
武山がそう言ってステージの方を振り向くと、透は真っ青な顔をして
「私のが強いわい!!」
と、武山にチョップを喰らわした。
「んだよ、痛ぇな!!意味わかんねえよ!!」
「いや、ほら、だからさ。ゲームはゲーム。ドラムはドラム。
ビーマニもDDRもギタフリもテクニック的には全然別だろ?」
「キーボードもパラパラもドラムも、結構テクニック共通じゃないのか?」
武山は「あいたた」と呟きながら、眼鏡を掛け直した。
「とりあえず、本当に上手い人のテクニックは、見てて損はないだろ?」
武山は再度、ステージの方を向く。
透は真っ青な顔をして
「たーっ!!」
「何だよ、さっきから!」
「あー、そのー…ちゃうねん(2回目)」
「ちゃうくねー!!」
「よみはすぐ怒る」
「お前さっき『帰れ!!』とか言ってたけど、それそっくりお前に返してやるよ…」

そんなやりとりをしている合間にも真樹はステージ上に上がり、軽音部の部長(と思しき
人物)に話しかけていた。
「あのー。情研部の話させてもらっていい?」
「いいよ、別に。後がうるさいだろうけど、気にしないで…」
今度は趣向を変えて、今でもファンの多いロック・グループ「THE VENTURES」の
「PIPE LINE」のつもりらしいが…
「出来損ないの、『THE ADVENTURES』みたいだね」
「ああ〜。ギタフリ2ndの…」
この会話、音ゲーをしない人には辛いかも…
ステージ上では、ギタリストもベーシストもドラマーも本気になって演奏している…つもり
なのだろうが、インスト曲なので、ボーカルだけが1人暇そうに右往左往しているのが
印象的だ。
「ほら。やるなら早くやらないと、他の部が乗っ取っちゃうよ」
「そうだね。ありがと」
「どういたしまして」
部長(と思しき人物)はそう言うと、ステージ袖へと引き上げていく。
マイクの位置を調整して、真樹は淡々と語り始めた。
それに合わせ、神田が用意してきたVJ素材をスクリーンに投影する。
『私達情報研究部は、3号館2階の図書資料室で』

「え?あれ?いつの間に…」
諸町は何が起こったのか分からない様子で、混乱し始めた。
「情研部は私1人じゃないって事よ…」
勝ち誇ったように、涼子は諸町に言った。
真樹は淡々と、情研部の活動内容を説明している。
『活動日は月曜〜金曜で…』
「つまり、貴女はあくまでも囮だった・・・って事?」
「そゆこと♪」
諸町は辺りを見渡すと、反対側で世間話をしている武山の姿を見つけた。

「してやられたな。さっきからどうも様子がおかしいと思ったら…」
「俺のポーカーフェイスも大した物だろ?」
「・・・お前さ、人をそうやって殴るのがポーカーフェイスだって言うのか?」
「うちの部長には負けるけどな…」
笑って歌えて人を殴れる、漢の中の漢。いや、女だけど。
そんな情研部部長の姿を遠目に見ながら、透は呟いた。
「そんな所で世間話しないの」
武山の肩を、諸町の右手が叩く。
「ほら、見てみろよ。うちの部の部長って、ポーカーフェイスが下手だろ?」
「…そうだな」
傍目から見ても、諸町の握力が強くなっていることがよく判る。そして…
「無駄口叩いてないで、アンタも突貫しなさーい!!」
武山の体は宙高く浮き上がると、ステージに向かって飛んでいった。
凄まじい腕力であるが、そこはまぁ小説的表現という方向で…
闇♪氏はくれぐれも、これを科学的に片づけようとしないように♪
「な、ナイスコントロール」
「伊達に中学の時、陸上部に入ってたわけじゃないのよ」
透の一言に、諸町は誇らしげに応えた。
「競技は砲丸投げか?」
「・・・マネージャー」
諸町は少し顔を赤くして、ポツリと呟いた。

さて、イラスト部と情研部が闘っている真っ最中、パソ研部は・・・
「部長。どうするんですか?」
松下は金井に聞く。
「そうだねぇ・・・」
金井は呟く。
「ハッキリ言ってパソ研って放っておいても、人が来るんだよな」
中西もまた、静かに呟いた。戦いはまだ続いている。
「質問です。こんな状況下で、情研部やイラスト部と戦う気がある人。
金井の質問に、誰も手を挙げなかった。
「ま、いっかと思った人」
松下の質問に、3人とも手を挙げる。
「帰ろうか」
中西の一言に、全員が賛同した。
「やっぱりこういう事に力を注ぎ込むよりも、部室の装飾をした方が良いですよね」
「まぁね・・・」
松下の言葉に金井は同意しながら、パソ研は体育館を後にした。

さて、ステージである。
「以上です」
全ての発表を終えて下へ降りようとしていた真樹に向かって、唐突に武山が飛んできた。
武山は慌てて避けようとする真樹の足に突っかかり、前のめりになり、軽音部の
ドラムセットへと突っ込んだ。さすがに軽音部の面々も驚いたらしく、演奏もストップする。
辺りは騒然となった。
「あいたたたた…」
武山がやっとの事で起きあがると、周りには厳つい軽音部(内の有志バンド)の姿が…
―――殺される!!
「派手ニヤッテクレタヨウダネ」
「いや、違う違う。うちの部長が…」
「私がなんだって?」
ステージ上には、いつの間にか諸町の姿もあった。
前門の虎。後門の狼…

「真樹、大丈夫か?」
ステージ上に上ってきた透は、真樹に声を掛け、手を差し出した。
「う、うん。大丈夫だけど…」
「…ど?」
「ちょっと危ない風味かなっていう…」
真樹の視線の先、幕をつり下げているワイヤーが、そろそろ切れかけている。
あと少しでも衝撃を加えたら、まず間違いなくワイヤーが切れて大惨事になるだろう。
「…とっとと降りるか」
「静かにね」
2人はそーっとステージから降りようとした。だが…
「へっ、へぶしッ」
透の豪快なくしゃみによる空気の振動によって、ワイヤーが切れ、幕が凄い勢いで
ステージ上に倒れてきた。
この事故により、軽音部の有志バンド数人と、イラスト部諸町+武山、そして透と真樹が
失神し、病院へと運ばれた。幸いにも透と真樹には怪我はなかった。

この事件は新聞でも報じられ、学校側は管理体制の甘さを指摘された。
マスコミに知れ渡ってさすがに恥ずかしくなったのか、生徒会も予算を出来る限り詰めることによって、文化部の予算を無条件で上げることを決定したという(といっても、去年のレベルに戻っただけだが…)。
以後、この事件に関わった軽音部とイラスト部、そして情研部は、一部の文化部から
それなりに感謝されたらしい。その代わり・・・
「情研部か。なかなかやるじゃないか」
と、生徒会からは目を付けられる結果となってしまった。
「生徒会長。後片付けしましょうよ」
「・・・桜井クン。俺はもう疲れたよ」
「そんな、何処かのアニメみたいな事を言わないで・・・」
沢口と桜井は、大きく溜息を吐いた。

数日後
「あれ?もう学校に来てもいいの?」
涼子は教室で中西とカードゲームをしている透を見つけ、そう聞いた。
「ああ。俺と高坂は回復が早かったからな。大した怪我もしてないし…」
「真樹ちゃんと付き合うようになって、大分抵抗力が付いてきたかな」
「ん?」
「ううん。何でもない」
涼子はそう言って、周囲を見渡した。
「高坂なら外の方に行ったぞ。早くから、昨日のマラソンの追走とか言って…」
透はそう言うと、友人連中とのカードゲームを再開した。
「別にマラソンの追走ぐらい、後に残しておいても良いのに」
「俺達の様な奴の場合はね」
涼子の言葉に、中西が答える。
「ほら。アイツ足が遅いから、どうしても何周か学期末に残っちゃうんだよ」
透が補足説明を加えた。
「なるほどね」
涼子は近くの席に座って、透達のゲームを観戦することにした。
「そういえばさ、新入部員は?」
「5人って所かな。金井君を入れたら6人だけど…」
「へぇ、どっちにしろ、部費はフルで貰えるんだ」
透はそう呟いて、更に一言?
「キャラ、濃い?」
「そ、それは実際に会って確かめてみてもらった方が…」
「そうか〜…」
透は苦笑しながら、更に「そいつは楽しみだ」とか呟いた。
暫くして、体操着姿の真樹が帰ってきた。
「ああー、疲れた〜…」
「お疲れ〜」
透はそう言って、真樹にペットボトルを投げ渡す。
「あ〜っと…」
受け損ねた真樹は、バランスを崩し転倒。ゴミ箱に突っ込んだ。
辺りに散乱する紙屑類。
そして、ゴミ箱に突っ込んだ衝撃で、また落ちかかっている蛍光灯。
「…け、蛍光灯って、こんなに落ちやすい物だっけ?」
「いや。そんな物騒な物だとは聞いてないけど…」
涼子と透は顔を引きつらせながら、そんな事を話した。
そろそろ危なげな勢いである。
「こりゃ当分、新入部員の顔は見えないな…」
透はそう言って、真樹に向かって走り出す。
数秒後、鈍い音が教室に響いた。
いつもの事なので、今更涼子は驚く様子も無く
「そういえば、金井君の姿が見えないけど?」
「うちの部長金井なら、学校をサボって・・・」

一方その頃、某県立病院では…
「城之崎 涼子、次こそは勝つ!!」
と意気込んでいるイラスト部部長が1人。
「あ、YAMAHAのサイレントドラムの中古が出てる…」
「おい。こっちはROLANDのキーボードが…」
と、中古楽器店のチラシを読んでいる軽音部部員が数人。
「やれやれ。何か賑やかだねぇ…」
と、お見舞い品を持って苦笑しているパソ研部部長(兼情研部部員)が1人(学校サボり)
そして・・・
「う〜ん、先生、お願いです。どうか退学だけは〜…」
と、武山が1人うな魘されていた。


□ ■□後書き□■□

P ・P・ R!(訳:やぁ諸君。元気かい?)、くりこま 悠です。
この小説は、毎回毎回無駄に長くなりそうな、若者的青春音楽栗駒的実験小説です。
(前話も含めて)今回は特に実験的なことはしていませんが、次回辺りに縦書きを
フューチャリングしようかと目論んでいます。とか思っていたんですが、編集長に問答
無用で却下されたので、過去に縦書きがフューチャリングされた証拠を探す旅に出た
DJ-VALKは、東戸塚東口の某ゲーセンに巣くう悪を打ち倒すべく、今日も今日とてbeatmania7thMIXに立ち向かって(中略)「ハチロクはドライバーを育てるクルマだからな」(中略)「お前はまた、走り出すしかないんだヨ」(中略)「ただ、あなたにだけ届いて欲しい
響け恋の歌♪」(編注:作者暴走のため、以下省略します。ご了承下さい)
なにしろ実験小説ですから、今までのSTANの常識に捕らわれない、自由な発想の
小説にしていきたいなと思っているわけです。
…で、前号の通り、詳細な自己紹介をさせて頂きたいと思います。

名称:くりこま 悠  性別:野郎   役職:永遠の編集長(∞編集長と表記)
年齢:18歳   趣味:音ゲー、乗り物全般、CG製作
好きなアーティスト(ジャンル不問・敬称略):芦名野ひとし、あずまきよひこ、泉陸奥彦、
楠みちはる、くるり、黒田硫黄、GOLI、佐々木博史、しげの秀一、清水文化、高橋しん、djTAKA、七瀬葵、BUMP OF CHICKEN、火浦功、VJ-GYO、村井聖夜、MONGOL800、山口かつみetc…
↑ジャンル不問だからって、漫画家、イラストレーター、音楽家、CGデザイナー全部
GOTTA MIXするのは止めましょう>俺

判る人には判ると思いますが、私の作風は火浦功氏の影響をかなり受けています。
友人にも断言されるほど、素敵なまでに…
正に私の人生観を完璧なまでに変えてしまった小説家サンですね。
代表作は「未来放浪ガルディーン」「ハードボイルドで行こう」「みのりちゃんシリーズ」
「ファイナル・セーラー・クエスト」等。いずれも迷作です。いくつか図書室にも置いてあるので、一度読まれることをオススメします。この捻れたSF感覚は、貴方の脳細胞を刺激すること間違い無しです(笑)

…まぁ、そんな感じで、1年間この破天荒な情研部の面々にお付き合い下さい。
1年間、続けられたらの話ですけどね(汗)

栗駒的創作系ホームページ URL: http://freett.com/kurikoma/

SPECIAL THANKS:高坂クン、諸町サン、勝柴サン(以上、千葉時代の友人)、.HaLクン(挿し絵)、宗村サン(大阪弁校正)
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