有機ってなんでしょう


 有機に関わって35年あまり。私が思う有機茶について書き記します。
たぶんこうだろうな、というあたりですので、気楽にと思います。


 1. 「100人いたら100通りの有機農業がある」
 私の恩師の橘泰憲先生の言葉です。当時すでに、多くの試みや農法が編み出されていました。有機農業を定義づけようとして、技術や資材などで切り取った途端に「有機的」とは言えなくなる。だから多様性をそのまま「有機の定義」をするということと解釈しています。

 たぶん「根っこ」は同じだけど、土地によって気候によって作物によって人によって、違っていて当然で、基本は「おらが有機農業」「わたしの有機農業」であって良いということです。

 そこで、橘先生は、「根っこ」の共通性から、有機農業を定義しようとしていたと思います。これについては次章で。
 
 2. とりあえず「有機農業」と仮に称して半世紀。
 1970年、有機農業研究会が発足します。このとき「自然農法」「酵素農法」「天然農法」や、様々な個性あふれるメンバーが全国から揃いました。

 そうした個性のぶつかり合いの中で、仮に名付けたのが「有機農業」とされています。もっと良い呼び名があれば、それにするといいながら、はや半世紀。なかなか言葉は難しいものですね。

 今では、「有機農業はもっと厳しくすべきだ」とか言う農家さんもいます。私はそれはどうかなと思います。範囲を狭くすれば、より理想的になるかもですが、出来る量は減り、食べたい人に届きにくくなります。規格範囲を双方納得の上で、「これくらいだよね」という総意の現状でも、生産面で厳しいものがある現状なのですから。

 先の話ですが、将来、誰もが普通に手に取れて、普通に食して、有機という言葉が必要になくなるのが理想なのではと思うのです。

 3 法律上の「有機農産物」とは
 作り手と食べる人が、双方納得していれば良いわけですね。本来は「顔の見える関係」といって、距離が近ければ可能でした。関係の輪が大きくなるにつれて、「産消提携」が生み出され実践されました。後に「TEIKEI」という言葉は、そのまま外国で使われたと言われます。

 さらに大きな輪になってくると、国としても無視できなくて、双方に不利益にならないように、ガイドラインを定めるようになりました。さらに@流通の適正化A外国の法律との兼ね合い、等の理由から、法律で定義することになります。

 法律の定義にあたっては、生産者・消費者・流通事業者等の、多様な意見を聞いた上で、外国の定義を参考に決めていったようです。つまり、多くの立場の人の意見の総意で出来上がっています。こうして「有機農産物の規格」が出来ました。

 この「規格」の特徴は
@外国の規格に準じている
A消費者団体の強い意向も踏まえている
B外部からはなるべく入れず、その土地の生産力を生かす。
Cそうはいっても、出来ないで全滅とか、出来ないことでなく、今出来ること、将来に出来るようになるようにする。
Dだから生産や消費に負荷がかかりすぎることもNG。

 個人的な意見ですが、
 実は@のおかげで、日本は不利です。例えばヨーロッパは、一度生態系が破壊されて単調なのと気候条件が涼しいのですが、日本は温暖湿潤な気候で、病害虫が発生しやすいです。例えば日本で育つ野菜の品種は、どこでも育つなどと言われます。

 外国がルールを決め、日本はルール内でベストを尽くすのが、お国柄でもあるので仕方ないかもですが、相手のルール押し付けが通常状態なので、もっと強くいっても良いわけです。農薬でもボルドーとか、ブドウ生産に必要だからと例外に入っているものもあるわけです。逆に、PK肥料とかは、ヨーロッパでは生産がないことで、使うなって言うわけです。
 

 4. 有機とオーガニック
 オーガニックを和訳して有機だったのかもしれません。「ハワードの有機農業」という、一部実践者のバイブルですが、そういう訳になったかと思います。

 この「有機」という言葉。もう一度考えてみると、実は適切ではないと思っていました。

 有機は、有機物のような生き物のイメージもありますが、例えば有機溶媒や有機化学といった、人工的な合成物の言葉もあるわけで、冷たい感じがしませんか。

 また、外国のオーガニックの言葉の背景には、生態系や農村環境を維持するといったイメージもあるそうです。とはいえ最近は、そういう考え方に共鳴する人も増えてきたようですから、言葉の意味も変わってくるとすれば、適切になっていくかもしれません。

 言葉はなるべく正確に伝えるための道具とすれば、「有機」という言葉にこだわりすぎることはないと思います。大事にするけれども、必要ならいつでも捨てられるように。


 5. 有機的なつながり、有機的な生き方
 オーガニックという英語は組織とも訳します。本来的な意味は分かりませんが、私の勝手な解釈によれば、「農でつながる共同体」でいかがでしょうか。

 有機的なネットワークは、農のみならず、子育て・学問・芸術・文化、あらゆる分野のネットワークです。私の場合は農を基礎として、どのように生きるかということかと思います。