2000 「それも、今は卯月(前編)」
一日(土)
「ちょっと引っ張りすぎじゃないかなあ……。あすか最終回」
さあ! 新年度デス! みんなも張り切っていきましょう!
僕もエンジン全壊! 早速ポケモンリーグを制覇して開幕ダッシュを仕掛けました!
……。
さ、寝るか。
二日(日) ガガガ上映会
「洗濯ばかりだとさすがの命もすり減るのでは」
今日はてーとくの家で上映会。ガガガとかダイ・ガードとか。堪能しました。感謝。
ダイ・ガードの終わり方はダイ・ガードっぽくて良かった。もちろん二十六話では食い足りないけれど、最後まで作品のカラーを主張して終わっていってくれたことに満足。
さーて。今日はこれからヤスが指摘してくれた画像見えない不具合の修正を頑張ってみます。では。
三日(月) K
「詩集をハトメで閉じるセンス」
色々あってお休み続きだった道場へ久々にレッツゴー!
そしてズタボロ。
「うーん。口で言うだけじゃ難しいな……。ちょっと、多津丘さん」
「はい」
「ちょっと切り込んできてよ。思いっ切り」
思いっ切り?
「じゃあ、行きますよ……。こ、(鎖骨痛打)おぉっ!!!」
「ここで止めるわけだ。後の先で」
つーか、あの、俺、痛い!
今日の稽古後のお茶の時間。
「多津丘さんの肝臓貰ったって、もうボロボロでどうしょもないや」
「酒の飲み過ぎでやられちまってるから」
「ちげえねえ」
……。
ちょっと待って。
なんで僕がいつもいつも道場の飲み会ですごい量のお酒を飲んでるのか、飲みたくて飲んでるのかどうか、ちょっとお話ししましょう。
特にT田さん。
特に、T田さん。
ところで、久々の稽古で身体が冷えたのでしょうか。マジで秒間一回のペースで咳が出ます。とまらねえ。ヤバいっす。タスケテ。
四日(火)
「雨の日の犬より惨めな閉鎖領域に独り」
アニメイトでパスチャガシャポン発見。「竜胆!」と叫びながら飛びつきたく思うも同行者の目をはばかって飛びつけず。そんな負け犬人生。
じゃあまあ、明日は入学式ということで早く寝ます。今日の今日、ついさっき書類を確かめるまで本校でやるとばかり思ってたもんで、東京都心部と聞いて慌てて準備中。早起きしないと間に合わないっちゅーの。
現在、いつものかっこにいつものコート(前に大阪行ったときに古着屋で五百円で買ったヤツなんですね。実は)で出かけるか、スーツ来て(また)形見のコート来て行くかで思案中。でも、後者はどう見てもうらぶれたサラリーマンなんだよなー……。
いやまあ、院生だからそれでいいのかもしれないけれど、帰りに都会で遊ぶときに浮くだろうなあ……。
などと必要以上にどうでも良い話の今日の日記でした。では。
五日(水) 入学式は12:00開場で東京だよオイ
「ケイゾク」
「ハーイ。水曜日のミズオデス。嘘デス。月夜見デス。今日の日記デス。
〆葉? 彼は脆いのでしばらく復旧シマセーん。
そんなわけで東京デス。朝から。面倒デス。とか言いながら寝てしまったのでポケモンもやってませんデシタ。
新宿から丸の内線で銀座へ。目指すは有楽町駅近くにあるまさにバブルの象徴、インチキジェントビル。いやシツレイ。東京国際フォーラムデス」
「……西だ。
式はテンポよく進んだ方だろう。某京大学よりは多少マシか。しかし、やはり学長挨拶がいただけない。今回も長いものだった。
柱は三つということで、話の内容自体はわかりやすく良くまとまっていてためになるものではあった。しかし、一つ目が大学の歩み。こんなもの、興味のない者にとっては睡眠BGMでしかない。そういうのが好きな者が調べようと思ったときにすぐにわかるように図書館を充実させる方が余程マシだろう。創立者がどんなに立派な人間だったとしても、こうやって偉業を安売りしてしまってはすぐに印象はペラペラになってしまう。
二つ目。学校の方針だというキリスト教主義に基づいた教育について。
ずいぶんご立派で正しいキリスト教がお好きのようだが、十字軍てなんだっけ?
三つ目。大学でどのように学んで欲しいか。
そんなこと学長がなにを言おうと関係ない。学ぶ輩は学ぶし学ばない輩は学ばない。長広舌の暇があったら環境づくりに勤しんで貰いたい」
「フフフ……。サクラだ……。
真似。
さて、式後は人混みに飛び込んで細いエスカレータでぎゅうぎゅうに帰る気にならない独り。勝手に壇上に上がってどんな景色かを確かめたりしていると当然のごとく不審がられます。仕事熱心な係の方が近寄ってきたまさにその時、伴奏のオーケストラ系サークルが片づけを始めました。何食わぬ顔でそこの椅子を持ち上げつつ……」
「なにか御用でしょうか」
「あ、大学の方でしたか」
「院生ですが(※嘘はついていない)」
「そうですか。失礼いたしました」
「バカめ。ヌルいぞ。
成り行きのまま椅子を運び譜面台を運び楽器を運び指示を出す。これだけ堂々としているとオーケストラの人も係の人間と思って疑わない」
「あの、これはどこへ運べばよろしいんでしょうか(敬語)」
「申し訳ない。私の管轄ではないものでちょっと(※嘘はついていない)」
「全ての撤収作業が終わり、舞台裏で関係者面で一息ついているとオーケストラの人が探りを入れてきます」
「あのー……」
「はい。なにか?」
「とりあえず、終わった、終わりました、ようなんですが(微妙に敬語)」
「そうですか。これだけ大所帯だと大変ですね」
「ええ、まあ、アハハ。……それでその(物問いたげな目)」
「では、私はこれで。お先に失礼いたします(サッサと去る)」
「……チッ。なかなか目端の利くヤツがいるじゃねえか。
その後も関係者控え室に寄り水を飲み舞台袖で学長が数名相手に今日の反省を話しているのを横に立って神妙に聞き、その集団と共にゾロゾロと退場。曖昧に話を合わせつつ怪しまれる前に独りだけ横の通路へ脱出。
以上、本日の作戦終了」
「……なんの作戦よ」
「『部外者なのに関係者面でいる時、堂々としていると意外に審問されないというのは本当かどうか確かめよう』作戦。結果は成功。サクラ偉い。今日その気になれば学長も殺れたね」
「ヤバいよこの娘やっぱり……。
えーと、さて、以降は私、浅葉成田がですね。お昼を食べに秋葉原に行きました! てーとくお奨め「がんこラーメン」!
まずは有楽町からアキハバラまで電車。どーでもいーけど変換するとカタカナになるのが嫌ですね。
で、「電気街口」と「昭和通り口」と、二つ出口があって早速ピンチ! どちらかはまやかし! ……ええいっ! 早くもこの手を使わなければならないなんて」
「どうするというのだ?」
「えーと、youngさんの電話番号は……」
「この妹は(プラス肘打ち)」
「ごっ! お姉! 痛い!」
「何故、秋葉原のことを名古屋在住の人に聞きますか」
「えー。だって絶対〆葉より詳しいし。前回もyoungさんに連れてってもらったんだよー」
「一応、我々は東京都民なのですから、まずは自助努力しましょう。どうやって行ったか、少しでも思い出してみなさい」
「んとネー。でっかい通りを真っ直ぐ行って、左側にあった」
「この妹は(プラス膝蹴り)」
「げほぁっ! お姉! 痛い!」
「ではまあ、少し歩いて探してみましょう」
「いいね。ついでにゲーマーズにも寄ろうよ。今、piaキャロの……」
「このこの妹は(プラス首折り)」
「こっ(鈍い音)」
「……あれ? ラーメンは?」
「食べましたよ。美味しかったです」
「そんなぁ……。あたしが気絶してるうちに……。って、今、何やってんの?」
「せっかく都内まで来たのだから、浅草で蕎麦を食べて帰ることにしました」
「……なんでアメ横にいるの?」
「末広町から御徒町を越えて……」
「歩いとるんかい!」
「浅草まで行きますよ」
「雨なのに!? ああ、もう……。っと、ところで、せっかくアメ横まで来てるんだから中田商店でスウェーデン軍放出品のオーバーコートをさぁ」
「……。(もはや無言プラス振りかぶりチョップ)」
「くぴっ(以降痙攣)」
「……妹さん、マズい感じだが」
「それにしても雨の日も風情がありますね。仲店は」
「いや、人の話を聞こうよ」
「お線香どこで売ってマスかー?」
「君も、人の話を聞こうね」
「鳩が捕まらない」
「いや君もかい」
「堪能しました」
「人形焼きも買いマシた」
「やぶそば」
「……では、行くか」
「……はっ! これは人形!?」
「マニアックな目覚め方ですね」
「そ、蕎麦は!?」
「美味しかったですよ」
「蕎麦湯もデス」
「工藤十三K」
「『蕎麦の一枚たぐっておいて御銚子もつけないという不作法』をやってしまった……。無念だ。しかし、上の表現は佐藤女史だったかな。すばらしいな」
「あんたらの愉快な藪蕎麦ライフはどうでもいいの! あ、あたしの、あたしの……。つーか、あたし今日ラーメンも食べてないし蕎麦もダメだったしpiaキャロも……」
「まだ言うかこの妹は(プラス踵)」
「えぇーっ!? 今日、あたしがヨゴれーっ!? 〆葉早く復帰しろチクショ」
(何かの倒れる音)
……合掌。
六日(木) 入学ガイダンス 歯科医(18:00より)
「さりとて望むべくも無し」
「やー、疲れた疲れた。
なんせ朝起きてどっか行くってのが久しぶりでしょー。まず。そんでもって通勤時間帯に電車乗るのも久々だし。まあ、旅行の時よりは荷物が少なくて楽だったけれど、それにしてもスーツで人混みってのは慣れないわ。
スクールバスがまた混む混む。今日は学部の方のガイダンスも一緒にあったらしくて、凄い数の新入生が来てるんだわ。高等部のみなさんが思いっ切り辟易した様子で学部生のはしゃぎっぷりに文句言ってたけれど、あれは同感だったわね。
ガイダンス開始時に合格二十七名と聞いてちょっとビックリ。結構落としたんだ。院生志望なんて少ないんだから全部入れてやればいいのに。金になるんだし。この少子化時代に真っ当な学園運営なんかやってると大変だと思うけれど。
まあ、在校者には有り難いのだけどね。
〆葉はガイダンス時に面白い話をした先生の名前をメモるのに必死だったみたい。なんでも、十一日には履修登録しなけりゃならないらしくて、ちょっと講義受けてみてどんな先生か掴んでみる、ってのが出来ないらしいのよね。そりゃどうかと思うけど。大学院。
ガイダンス後に早速拾ってくれた教授のところに顔出して、ここでも時間割の組み方とかどの教授がどんな人かとか、足場を組んで学風を掴むための作業に終始していたみたい。そりゃそうか。二年しかないんだから、スタートでコケたら痛いわね。
で、寺崎先生からなんやかやで七冊くらい本借りて今日は帰宅。基礎文献だっていうけれど、来週の講義開始までに全部メモ取りながら読むのは結構骨かもよー……。
で、旅行前以来久々に歯医者さん。次で終わりだって。ひゃっほう。
以上、本日の日記は浅葉成田がお送りしました。あ、成田宙港に新航路を追加したの挨拶状まだ送ってない件については、もうちょっと待ってくれい。
ではまた!」
七日(金) 健康診断(10:00) 太平館
「盛り下がりに欠けない」
「……さて。
今日は健康診断。診断されるのが大いに嫌いな〆葉はブツブツ言いながら登校だ。ちなみに当然遅刻。次の組に入れられて更にブツブツ。やってられないのは付き合わされてるこっちなのだがな。
で、結果は特に問題なかったらしい。どうでもいいが採血の時に「血だ!」とか悲鳴を上げるな。こちらが恥ずかしい。
健康診断後は午後から試験官のバイトのために学食で食事。350円でランチが食べられるとは……。学費がこういう場所に還元されるのは素晴らしいことだな。というか、本来大学とはそういうものだろうが。ロンドン大学など学食は無料だというし。しかし、帝某大学に四年もいるとそういう考えとは縁がなくなるな……。
しかし、老実館食堂は女生徒ばかりでいづらい。本来、短大生用の食堂なのだろうか。
閑話休題。LL施設棟にてバイト準備。〆葉は今日はこのためにスーツで来ており、日本のこの陽気はスーツでいることがおかしいとかなんとかブツブツ言っている。
これもどうでもいいが、本来履修登録〆切前というのはとにかくたくさんの教授を訪問して師事する相手を、ぶっちゃけて言えば、ゼミで面倒みてくれる教授を捜す期間なのだが……。
昨日、世話になった教授の研究室を訊ねたら、ホワイトボードの名簿の上から三番目に名前があって、そのうえ五月の学会での仕事の割り振りが決まっていた〆葉にはもう研究室探しは関係ないゾーンらしい。期待されていていいことではないか。
……プレッシャー? ああ、まあ。そうだな。
さて、今日で桜美林へ来るのは二回目という新任の先生と同じく今日で二回目の新入院生という指揮官を降格させるべき編成の我が連隊は自信なく任地へ向かい、それっぽくハッタリをカマしてつつがなく任務を終了。
途中、支給されたヒアリングのテスト用のテレコがブッ壊れていた、というとてつもないハプニングはあったが、他はつつがなく。というか、事前にチェックしてくれ給えよ……。
その後〆葉は町田へ遊びに出て、この二日で溜まりに溜まったフラストレーションをぶちまけて来たらしい。明日は鷹村さんの引っ越しの手伝いだというのに、帰宅は翌朝三時というから恐れ入る。
大丈夫なのか? 明日。
……ああ、西だ。
そうそう。柴三郎君、素敵スタイルがわけわからないとのことらしいが、あれはああいうコーナーなので理解しようとしないで感じて欲しい。詩のようなものだ」
八日(土) K 引っ越し手伝い(7:00成瀬)
「彼の帰還」
「もちろん遅刻デース。
引っ越しの手伝いニ。ざち部長プラスワンが朝から頑張っていたらしいデスよ。鷹村さんお引っ越し。そして〆葉は昼から参戦。
まあしかし、終わってみれば手早く片づいた方だったらしいデスよ。荷下ろし中は半分マッスィーンと化していたので〆葉良く記憶がないそうデス。
さて、メデタク引っ越し終了し、御祝いの飲み会の準備が始まりマスと、〆葉はフラフラと出かけて近くの公園でベンチにひっくり返って睡眠の補充デス。昨日ほとんど寝てませんからネー。
これが寒くて大失敗! 調子を崩して飲み会デス!
そんなわけで酔っぱらうことすら出来ない体調不良での飲み会でしタ。合掌。それは夜も帰らずに泊まるわなあ、というところでショーか。迷惑!
まあ、この日の引っ越しレポートについては、詳しくは鷹村さんの日記をご参照クダサーイ。投げやりでスイマセーン。
ではでは。最近ポケモン漬けの月夜見デシた。バイチャ」
九日(日) 花見(16:00吉祥寺)
「桜雨」
「嫌な夢をたくさん見たらしい。
それは要するに寝過ぎだろう。
そんな目覚めの日曜日。鷹村さんの冷蔵庫を漁ってパンを奪って朝食。その後クダを巻き、昼頃にやっと撤収。ダメだよ。迷惑かけちゃ。あと、レイアースのコミックスを延々読み続けるのはどうか。
一瞬家に帰って昼食を採り、勇んで吉祥寺へ花見に出かけると思いきややはし寝る。電池が切れたみたいに。人間、睡眠時間少ないと弱いね。というか、〆葉が特に。
ギリギリ間に合う時間で家を飛び出すも横浜線が事故で止まり結局遅刻。しっかりし給ヘよ。そのうえ電車の中では立ったまま寝て膝が抜けるし。格好悪い。
井の頭公園の待ち合わせ場所にたどり着くまでに人混みやらなんやらに当てられてもう気分の悪い〆葉。河邑達主宰の飲み会だったけれど、集合からもう不機嫌で愛想無し。都会なんだから人はどっからか湧いてくるし、あれだけいれば変なのもそりゃいるってばさ。いちいち気にしてたら都民はつとまらんぞぉ。
ここでは花見と言っても本当に花を見るだけで、飲みは別の場所で、というか個人宅で。昨日の飲み会と同じ感じね。準備中にフラッと出ていってしまったところも同じ。今日はなんかクレープ食べてたわよ。昨日は「夜桜を独り」今日は「人混みでクレープ」。シチュエーションが思いつくと体験せずにはいられないって、病的ね。
それにしても今日の飲み会ではひとみ悟空やヤスがアクセル全壊でとても面白かったり。柴三郎君はちょっとどころか大いに調子悪そで心配だったけれど。
帰りに来るまで送ってもらいながら思いっ切り寝たり、無様で無礼だったけれど、とにかく、昨日今日と気分転換にはなったみたいだよ。あの人。寝不足暮らしも仕方ないか。気分転換だって命がけでやらなきゃいけないときもある。
そんな暮らしは嫌だけれど、嫌なことをこなしていくのが人生さね。
みんなも頑張ろう。『ラブひな』は水曜日からだよ。確か」
十日(月) K 歯科医
「正当ならざる正当防衛」
「どうも、諸君。
〆葉は今日は午後から起きてきて院の書類など書いていたらしい。途中で聞かねばならないことがあるとかで雨の中院まで行って教授と小一時間ばかり話していたかな。
あとは、歯医者に行って今日で治療が終わったとかで喜んでいた。長かったな。今回。虫歯も舐めてはいかんということであろう。
夜は道場に行って、今日はずいぶん長く色々やっていたようだ。居残りさせられていただけなのだろうが、本人楽しそうだったな。
そんなところか。私は、他の皆とは違ってそれほど意識が向いていないのだ。勘弁して貰おう。
今日の一行文は、朝日の記事から。
本来、人権と人権がぶつかり合う以上威力行使の場面において正当防衛など成り立ち得ない。しかし、我々は普通の人間であって聖人ではないのだから、正当でないとわかってはいてもある場面では威力を、具体的には暴力を振るって事に当たらなければならないときもある、というのが私の解釈したところだ。
これは、武術の研鑽を積んでいる者なら必ずぶち当たる壁であろう。道として己を高めることが主題の武道とは違い、武術は結局効率良く危害を加えるための技術の集合体に過ぎない。身につけるのはいいが行使できない力を得るために努力するというのは阿呆らしいと思うときもある。
しかしまあ、世の中にはいずれどこかでそういう種類の技術を必要とする場面も出てくるだろう。もし、そうなった時には速やかに目的を達するために、そのための武術だと私は思っている。
〆葉は少し違うようだがな。偽善者という者はまこと、度し難い」
十一日(火) 履修等〆切 午後二時、帝某
「たまに狗が羨ましくなる。狗と奴隷が」
「ジャイアンツが始まっちゃう! ついでに大学院も! ついでかい! 成田だよ!
だからまあ、早く起きろ〆葉!
それはそれとして今日の〆葉は朝から本日提出〆切の履修登録用紙とその他書類のためにてんてこまい! ウソ! いまいちやる気なさげに舌打ちと「馬鹿が……」を繰り返しながらモソモソと作業するサイアクの引きこもり青年状態! いっそ倒れろ!」
「この妹は……」
「今日は避ける!」
「ちっ」
「遊んでないで手伝いたまえよ。記入が面倒かつ多岐に渡っていて大変なのだから」
「そんなん、てきとーでいいジャン。どーせ見やしないって。ていていていっ」
「写真? わざわざ探してこなくても、昨日貰った道場の飲み会の時の写真を切って貼ればよろしかろう……。ほら、出来上がりだ」
「……調べれば確かなことがわかる数字を適当に書くというのはどうか」
「この写真、後ろ全部酒瓶デスけど、いいのデスか? 「イーよべつにどーでも」? サイで」
「じゃあまあ、書類提出にレッツゴー!」
「……さて。
そして大学院。書類がなんとか通って、バイトもなんとか通って、帝某大学でもバイトを貰って、帰って花見。
そう。花見。
花見で缶ビールを飲むのも嫌なのでリターナルの瓶を引っさげ。焼鳥屋でカシラとモツと皮を買い込んで。
城山湖の眼下に広がる桜海を見おろしながら、噛めば噛むほど味の出る種類の焼き鳥とビール。そしてどこかで粋な誰かが演奏しているトランペットのBGM。ジャズ。
薄暮に飲まれる光景。背中を大地に預ければ、空はまだ蒼く。陽光の残滓が流れる雲を横合いから照らす。天上。
翳りを抱え、形を変えながら迅く飛ぶ雲の中央、中天には白の朔。微動だにせず。空の王となる時を待つ。
夜の月の刻を。
そして日没。文学者の言うとおりなら、大量の死体の埋まっている桜花散華の風景は、月光をあびて薄紫に光る。
其は燐光のごとく。死者の魂の色に。さながら冥府の遠望。
天地の狭間に、眩霧の海を渡りて還らん。死体の呻きと春の死臭を受けて。
サクラのある風景」
十二日(水) 講義開始
「静粛に。静粛に! これ以上議論を尽くしてもどうにもならないようですので、議長権限で決を採らせていただきます! ……それでは、『松坂大輔共同開発って言うけど、あいつ文句つけてるだけジャン』と言う意見に賛成の方はご起立ください! ……ハイ、わかりました! 撃て!」
「やー。今日も今日とて引き継ぎ説明なしでいきなり計算センター受付バイト業務開始だってさ。これって校風なんじゃないかと疑う感じだね、こりゃもう」
「そんな校風がありますか」
「で、昼食採ったりニューサフランでいちごわっふる買い込んで教授のところで紅茶いれて勝手にアフタヌーンティーぶったりしつつ初講義を待ちー」
「そんなM1がいますか」
「初講義コース演習では今さらこれからの学問のためにネットの使い方説明されてもこちとらネット歴三年突入Webサイト持ちのネットサーファーだぜ聞いてられっかと眠気全開!」
「そんな偉そうなことが言える身分ですか」
「講義後、事務の人に大学のアドレス宛に来たメールを家に転送できるようにいじってもらってたけれど、〆葉大学のアドレス誰にも教えてないしどっかからメール来るあてもないのにねー」
「せっかくだからここに書いておきましょうか。s0041111@obirin.ac.jpっと……」
「だから! どこの大学かわかっちゃうんだからまずいっしょ!」
「それもそうですね。しかしまあ、別にいいんじゃないでしょうか。だいたい、個人であどれす持ってる人間が大学のあどれすをいつ、どこで使うのです?」
「それもそっか。どうせ、学術団体にはばれちゃうんだし」
「むしろこのページに大学院関係の方がやってこないようにふぁいあーうぉーるでも立てるべきでしょう」
「大学院といえば、なんかガイダンスの日に色々世話になった友人一号さんが、ネットとかもやってる人だったらしいよ。〆葉また友達当たりくじだね」
「あいつの人生他は全部外れですからね」
「そゆことゆーのよそうね……。えーと、その劉さんのページのアドレス聞いてきたんだって。ここだなー……。ちょっと見に行こうか。レッツ・ゴー!」
……。
「……結構、賑わってますね。『皐月亭』ですか」
「あたしここ知ってるよぅー……。確か、文章系なのにサーファーズパラダイスでランキングTOP30くらいにいる古強者ページじゃん……」
「まあ、身近に凄い人が隠れていたと思って精進すれば良いでしょう。凄い友人がいるからといって自分が凄いわけではないという基本さえ押さえておけば」
「〆葉相互リンクしようとか言われて喜んで受けてたけど……」
「もう駄目だなあいつ」
「〆葉どーすんのよぅ! 部屋の隅っこで虚ろな瞳で膝を抱えて留守電聞いてる場合じゃないでしょーが!」
「ああ。あの時間いっぱい犬が殺されているようなひきつるような濡れた物が叩きつけられるような嫌がらせ以外だとしたら一体どんな意義があって吹き込んでいるのか理解しかねる不思議音声が延々続き用件も人声すらもまるで入っていないしかし人間の悪意はひどく尖鋭に感じるあの癒し系音楽の方向性反転系録音か。
〆葉あれ最近お気に入りらしいな。朝に夜に必ず一回は聞いてるぞ。そのあとでいつも死にそうな顔してるのが妙だが」
「やめろーっ! そういう精神的不健康はすぐにやめろーっ!」
「ある意味貴重だと思うのだが。あそこまであからさまな嫌がらせ電話は」
十三日(木) 奨学説明会
「○国人ねぇ……」
「西だ! 速報!
『コックリさんが通る』復活! しかもヤンサン本誌! これからは毎週奥瀬サキが読めるぞ!
一週目にしてメインキャラを全員登場させ、いや、主人公まだか。まあ真打ちは後からということで。そして新キャラを絡めてしかも話を停滞させず『敵』を明確に打ち出してそのうえ短くまとめる! 奥瀬サキ健在! いやー、『フラワーズ』とかはあれはあれで面白くはあったがちょっと人にすすめられないしどうしちゃったんだろうと思ったがコックリさんで復活とは。これは嬉しい限りだ。神湯神父も元気そうでなにより!
まさに素晴らしいニュースだ。素晴らしいニュースだった。本日は以上」
「勝手に終わるのはどうか。漫画読み。
今日のお昼は『さくらんぼ』。値段は学食ランチの倍近くするが、量も倍。しかも焼き肉旨い。しかし騙されてはいけません。真に恐るべきはソフトクリーム。馬車道のアイスクリンとまで言っては言いすぎだが、こぉれは旨い。そのうえ150円。毎日通ってはいけませんよ。〆葉。
そして少し歩いたところにある八幡様の境内の隅にある年季が入りすぎてちょっと子供が遊べない風格のシーソーに座って食べる。まさにこのためにあるようなシーソーだ。それはウソだ」
「今日はあと初めてカプコンの三人チームの格ゲーをやりましたネ。ジン、バレッタ、ジルのお気に入りと手堅く使い慣れと後は新キャラでも入れておくかチームデス。
とりあえずラスボスまで行って三段階目で負けました。サオトメハイパーモードが見られたので満足デス。対戦やる気しねえデス。
デハデハ」
十四日(金)
「助っ人外人墓地というのはどうか。ダメか。スランプか」
「午前十時半からバイト。昼休みもバイト継続。開けて三限は講義。四限はバイト。五限もバイト……」
「それは昼食採る暇ないな」
「だからなんかパンとか食べてるらしいよ。そんで金曜だから図書館いかなきゃって町田に行くし」
「間に合わないだろうに」
「19:00過ぎじゃ学バスが本数、ないからねえ……。でもまあ河邑君達と合流して、カレー食べに行ったらしい」
「かれーでこの時間になりますか」
「んにゃ。その帰りに今度はまちだでてーとくさん達と偶然会って、GUSTでダベって来たらしい」
「で、帰宅は?」
「三時くらい。寝たのは四時かな」
「それで土曜の昼間っから寝倒しているわけですか。この男は」
「そろそろ起きないと土曜は本ゼミなのにねえ……」
十五日(土) K
「ことばがいみをうしなっていく」
――こことここに印鑑を。……はい、確かに。
ではどうぞ。
それだけのかちはないにんげん
以上でよろしいですね。では終わります――