ゆく年くる年(2003)

1.ゆく年

 誰もいない家に帰るのはいつものことなのに、灯りをつけるのすら億劫でベッドに潜り込む。
 学校が休みでここぞとばかりに仕事を入れられるのが嫌だったけど、仕事の間は何も考えなくてすむからちょうどよかった……はずだった。仕事が終わって一人きりになった瞬間、一気に心の中が寒くなる。
 夏休みは平気だったのに、顔を見ていないこの一週間がそれ以上に長く感じられて、あいつの存在が俺の中で大きくなっているのを思い知らされる。わかっていたのに、わかっていたから避けていたのに、それでも入り込んできたあいつ……。違う……それを望んでいたのは俺なんだ。
 麻酔が切れていくかのようにじわじわと、「孤独」という言葉が俺の中で意味をなしていく。平気だと思っていたけど、本当は孤独過ぎて感覚が麻痺していたようだ。あいつとの再会はぶつかった以上に俺の心に大きな衝撃を与えたのかもしれない。

 ごーん、ごーん……。

 遠くで除夜の鐘が響いている。
「もう……?」
 今日が大晦日だということも意識していなかった。俺にとってはあいつに会っていない日がまた増えただけだからだ。
 ただ、あいつがこういう節目の行事を外さないのはわかっていて……。
「バカだな……こんな時間に」
 思わず携帯電話のメモリを呼び出して押しそうになる。
 何度も繰り返した動作なのにかけたのは春に一度だけ。唯一覚えた電話番号で、携帯電話を持つ度に指が勝手にダイヤルするようになるほど、俺はあいつを呼んでいた。……それは心の中だけで、通話ボタンを押す勇気のない俺に、返ってくる声はなかったのだが。
 自分の滑稽さに呆れ果て、電話を放り投げて布団を頭までかぶる。だけど、こういう時に限ってなかなか眠れない。
「……とにかく明日起きないとな……」
 あいつを待たせたくなくてやっと買った目覚まし時計をセットする。
 もしかしたらあいつからかかってくるんじゃないかと心のどこかで期待しているが、冬休みは仕事漬けだと話してしまった以上、気遣って誘ってはこないだろう。

 だから……。あいつに電話をしてみよう。
 年が変わっただけなのに背中を押された気がするのは、あいつの影響受け過ぎなのかもしれない。でも、それもいいと思う自分がいる。
 変わってしまったことを思い悩むくらいならまた変わるのもいいかもな……。

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