ゆく年

「お待たせ。ナンナ、最後になってごめん」
「いいえ。当然のことですわ。それよりお疲れになったでしょう。後は私が」
「だ〜め」
 ナンナが席を立とうとするのをリーフは制した。
「ナンナにはチェックしてもらわないといけないんだから。それに、ナンナだってずっとお節の準備してたじゃないか」
 まもなく新年を迎えるレンスター城。正式に即位して初めての年越しということもあってか、リーフとナンナは先頭を切って迎春準備を進めていた。大掃除に餅つき、正月飾りetc…。大晦日の今日はナンナはお節料理の陣頭指揮、リーフは年越し蕎麦を城に仕える者達に振る舞い、やっと一段落ついたのである。
「さ、食べてみて」
 二人分の蕎麦をテーブルに運ぶリーフ。少し緊張気味である。
「それではいただきます。………。とっても美味しいですわ」
一口すするとにっこり微笑むナンナにほっとしたものの、まだ不安が消えないのか、
「ほんとに?」
とリーフはナンナを覗き込むように見つめた。
「本当です。お父様のお蕎麦と全く変わりません」
 ナンナはリーフが聞きたいことをずばりと答える。それでやっとリーフは笑顔を見せた。
「よかった♪一応フィンから合格点は貰ってたんだけど、やっぱりナンナに認めてもらうまでは心配だったんだ」
「さすがはリーフ様。合格点どころか満点です♪さあ、リーフ様も早く召し上がって下さい。伸びてしまいます」
「そうだね。いただきます…うん、美味しい」
「でしょ?」
 蕎麦をすすりながら微笑み合う二人。ふと、リーフが窓から夜空を見上げた。
「今頃…フィンも食べてるかな?」
「ええ、きっと…。固執はしませんでしたけど年中行事はきっちりなさいますから」
「どこにいるか知らないけど、見た人は驚くだろうね」
 トラキア半島にしかない蕎麦。初めてセリス軍に振る舞った時の反応を思い出し、半島を離れて蕎麦を食べるフィンを想像して吹き出すリーフ。
「ふふふ…。きっと蕎麦の普及に貢献して下さいますわ」
「今はアグストリアしか輸出してないから助かるな」
 父から手解きを受けて一人前の蕎麦打ち職人となったデルムッドのいるアグストリアは新トラキア王国にとって最大の得意先なのである。セリス軍の仲間は皆蕎麦にはまったのだが、蕎麦を打てる者がいないので御歳暮として完成品を贈るくらいである。
「まずはトラキアの蕎麦を食べに来てもらって、ゆくゆくは蕎麦で大陸を席巻しなくては」
「そうだね。ご当地蕎麦で観光収入もアップだし♪」

 ごーん…ごーん…。

 政治的な(?)会話が白熱しかけた頃、遠くから除夜の鐘が聞こえてきた。
「うわ、早く食べちゃわないと。終わったらノヴァ廟へ初詣に行こう」
「はい♪」
再び箸を取ったナンナは幸せを噛み締めるように蕎麦を口にした。
(お父様…私はこんなにも幸せです…)
「きっとフィン達もこんな風に蕎麦を食べてるさ」
 ナンナの願いをさらりと口にするリーフに、ますます胸が熱くなる。
「リーフ様…」
「ナンナ、蕎麦本当に伸びちゃうよ。それに初詣から帰ったら…」
「お雑煮でしょ?」
「当たり♪」
 リーフははしゃいでいたが、一瞬真剣な眼差しでナンナを見つめて耳元で囁いた。
「ナンナ…来年も…ずっとずっと一緒だよ」
「はい…リーフ様」

Fin

後書き(?)
だからここは何処…(^^;)
突っ込み過ぎてお疲れになられたと思いますが(おい)、来年も『空のお城』をよろしくお願いいたしますm(_ _)m

戻りましょうか… きた年も読んでみる