テレビもゲームも催眠術(松岡圭祐、ジャパンミックス 1200円)

 催眠術師である筆者が、催眠術の基本理論である「トランス状態」をキーワードに、超能力、映画、パチンコなどを分析する。それぞれの分野を「陶酔状態を誘う戦略」という視点で捉えなおす視点は非常にユニークだ。
 例えば、この視点で映画を見ると「視覚的効果などで心理的な錯覚に身をゆだねること」となり、最近の作品を見ているとトランスに入る速度がそれに合っているので、古い作品ではトランス状態の起伏が起きにくいことになる。また、ゲームでは、マリオが「全身の運動を調節する感覚をゲームに移植することができ、普通の体を動かして得られる運動性のトランスが、より深くゲームで味わえるようになった」ということになる。映画やゲームの「気持ちよさ」を考えるうえで、この「トランス」が無視できない働きを果たしているというのは自分の経験からもよく分かる。また、この中で紹介されている第1次被暗示性(催眠術などへのかかりやすさ)と第2次被暗示性(嘘の騙されやすさ)は、新興宗教などの信者の行動を分析していくうえでも、重要なキーワードになるのではないか。それにアニメなどに没頭するオタク的な指向は、ある種の「虚構への依存」であるという指摘もうなずけるものがあった。 
 だからこそ、論の詰め方がやや雑駁な感じがするのが非常に惜しい。ゲームによって運動性のトランスが得られるようになるということの問題点としてでてくるのが「運動するよりゲームをするほうが楽になり、運動不足や肥満につながる」というのは、帯に書かれている「おたく世代の文化論」というフレーズから見ればかなり物足りない。そのほか、状況を単純化しすぎだったり、そのジャンルへの理解が浅いように見受けられる個所もあって、読みながら首をひねる部分があったのも確かだ。
 しかし、個人的にはこの独自の視点を深めてもらいたいという気持ちがあるので、一度テーマを絞り徹底的に論じるような本を書いてもらいたいと思う。(97/1/30)


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