品格なくして地域なし(関川夏央ほか、晶文社 2136円)

 静岡県浜松市にはアクトシティと呼ばれる複合施設がある。施設には大型ホールと物販ゾーン、オフィス、ホテルが入っており、浜松市の「文化的拠点」となる目的で建設された。建設費数百億円という点はとりあえず別問題にして、ホールを活用して「音楽の街浜松」を育成するという意図は別に非難されるものではない。ただいつも気になるのは、アクトシティから少し離れた場所にある鍛冶町通を中心とした中心商業地が次第に寂れていくことだ。
 この本は5人の筆者がそれぞれ町起こしに取り組む8地域を訪れその実態を、それぞれの手法でルポている。各地域の取り組みはそれぞれだが、印象に残るのは民間の人が独自のアイデアで取り組んでいる姿だ。本の中では、町おこしが盛んになったのは、高度成長が終わり地方産業振興から地方文化振興に旗印が変わったためだと解説する。だから町おこしは自立的に発生したのではなく、補助金が背景にあってのことだという。筆者の一人日下公人氏は地方文化というと「伝統文化の掘り起こし」と「保存」ばかりで、現代文化の創造や未来文化の挑戦が出てこないとはっきり指摘し、あっても欧米の一流の演奏家を招くぐらいだと切って捨てる。
 ここに書かれているのはまさしく浜松のことだ。日下氏の指摘は主に行政についてだが、それを逆に見れば、浜松の街がいかに活気がないかが透けて見えてくる。そびえ立つアクトタワーと歯抜けの危機に瀕する商店街のコントラストは、浜松の抱える病根の深さを示している。
 この本で印象に残ったのは米子市で今井書店が開催している「本の学校」だ。この学校ではあらゆる出版に関する作業を教えるという。学校というシステムは地域文化を考える上で重要だが、これまであまり取り上げられていなかったのではないか。地域文化を生み出すには、私塾のようなシステムが成立し、それが町づくりの中に反映されていくのが望ましいと思う。
 昨年浜松のアマバンドを支援するため業界の有志が組織を立ち上げた。機材などを無料で提供し、今後月1回のペースで屋外ライブを行っていくというが、こういう組織の活動が中心商店街にある種の広がりを持っていくようであれば、浜松も捨てたものではないかもしれない。(97/1/15)


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