絆(きずな)


 人それぞれ幸福の基準はさまざまだ。とはいうものの、「船乗りという設定の田中健が息子といっしょにケーナを吹きまくる」というシーンを見ただけで「ああ、この一家は幸せなんだなあ」と、実感するのは。かなり難易度高めの設定とえいるのではないでしょうか。 

 このように映画は、見る人を選ぶ映画です。なにしろ、感動したいと思っている観客に対して、挑戦的とも思えるほどに間口を広くした上で、敷居を高くしてますから、この映画を見て、つまらなかったとしたら、それはあなたが映画に選ばれなかった、ということです。ちなみに私は、感動できなかったけれど、かなり笑わしてもらったので、プラマイゼロといったところでしたが。

 あちこちに不思議なシーンがちりばめられているんですが、やはりラストシーンが一番分かりやすいので、そこを紹介します。この主役である役所広司が死ぬシーンも、田中健が登場する回想シーン同様、次々と繰り出す小技に、ボクはノックアウトされるとこでした。ポイントは大きくまとめて3つです。
 @いろいろあって焼津港で死ぬ間際、主人公は思い出のケーナを吹こうとして血を吐いて死ぬ  
 Aそれを見守っていた刑事(渡辺謙)が無言で、彼の生き別れの妹の結婚式の招待状を手渡す  
 Bそこで音楽が盛り上がってカメラがクレーンアップする 
 想像力への挑戦かと思えるくらい、わかりやすい展開、演出です。「こうするとドラマチックだぞ」、という定石を全部詰め込んだはずなのに、なんで笑えてしまうんでしょうか? その問いに対する真面目な答えはここでは封印しておきます。

  そういえば、副総監(特別出演・津川雅彦)と渡辺謙が会話するシリアスなシーンで、なぜか渡辺謙の背後にちょこんと笑っているピーポ君が置かれていました。今、考えると、あれが「この映画は笑ってもいいんだよ」という、スタッフからの毒電波による暗号だったのではないかと思える毎日です。
(98/7/8)


映画印象派 RN/HP