かちかちやま(高寺彰彦、講談社 1100円)

 最近の日本のマンガには完成度の高い短編が少ない。少年マンガの場合は連載を前提としたパイロット版という性格が強いし、少女マンガも短編でなければならないような必然のある物語は数が少ない。そんな中でこの「かちかちやま」は、このスタイル、長さだからこそ作品が成立している。
 これらの作品を読んで感心するのは語り口のうまさだ。それは基本となるマンガの「カット割り」がしっかりしていることによっており、読者は作者の想定するテンポで見事によまされてしまうことになる。だから絵柄が大きく変わっていなくても、シリアスな活劇からドタバタまで幅広い物語を過不足なく語ることができているのだ。
 この妙技は他の作品である「悪霊」や「トラブルバスター」でも味わうことができるが、もう少し詳しく技術面を知りたければマンガテクニックを扱った「コミッカーズ」(美術出版社)の連載を読むことをおすすめする。その連載は、技術だけでなく作者のマンガにかける情熱が伝わってくる内容で、こうした作品がその情熱に裏打ちされていることが実感できる。(97/1/14)


漫画荒野 RN/HP