ヒット&ラン(N.グリフィン K.マスターズ共著、キネマ旬報社 2800円)

 ジョン・ピータースとピーター・グーバーという「大物」プロデューサーがいかにして、ソニーから金を引き出したか、というノンフィクションである。なぜ大物がカッコ付きかといえば、彼らはハリウッドの遊泳術にたけていただけで、彼らの映画製作者としての実力は「虚像」に過ぎなかったからだ。筆者の二人は広く深く取材をして、彼らの半生とソニーのコロンビアへの投資がいかに不毛な結果になっていったかを解き明かす。
 これは読み方によっては一種のピカレスク・ロマンととらえることも可能だろう。彼らにとって映画産業とはリッチになるためのステップボードに過ぎないだったのだから。そう思って見れば、ジョンとピーターがコロンビアの経営者となるまでは、魔物が潜むハリウッドを持ち前のタフさでのし上がっていく2人といった調子で読むことも可能だ。作者の筆は冷静に事実だけを積み重ねることで、2人のキャリアアップの過程を描写していく。映画「ザ・プレイヤー」の主人公(ハリウッドの文芸担当プロデューサー)なんて、彼らに比べれば小物過ぎて比較の対象にならないくらいだ。
 この本を読んで強く感じるのは、ハリウッドは我々の社会とはやや似ているが、根本では全く違うルールで動いているのではないかという点だ。映画というフィクションに携わっているため、ハリウッド人種の現実そのものが演出優先ででき上がっているようだ。だから、ハリウッドも同じビジネス社会だと思ったソニーは損害を被ることになったのだろう。盛田前会長が著書「メイドインジャパン」で日本ビジネスの方法論を強調したのも、こうなるとかえって皮肉に見える。
 では、ソニーがもっと用心深かったらどうだっただろうか。あるいは他の会社だったら?。この本の印象で言うなら、例えソニーが用心深くても、それが別の会社でても、コロンビア買収で損害を受けることは避け難かったように思う。何故なら「ハリウッドで最大の詐欺」とまで言われた2人の行動は、アメリカ人にとっても非常に不可解で、ハリウッドインサイダーにしかその本質は分かっていなかったからだ。そしておそらく、こうした二人を産んだのがハリウッド独特のビジネスルールであり、それ故に今後も日本企業のソフトビジネス参入は難しいように思う。この本を読むとそういう印象を強く受ける。
 最後につけ加えると、翻訳が直訳すぎて少し読みにくい個所がいくつかあった。(97/1/14)


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