テレビゲームと癒し(香山リカ、岩波書店 1236円)

 帯に「テレビゲーム療法試論」と書かれているように、精神科医の立場からゲームを患者の治療法にどのように活用してきたかが、この本の一つの焦点になっている。しかし、この本の大事な点は、むしろ、これまでの「ゲーム悪玉論」について丁寧にその軌跡を追い、その悪玉論がいわば「えん罪」で、本質的にゲームと子供の関係を研究した報告がないことを指摘している前半部分にあると思う。だからこそ、後半のテレビゲーム療法に関する部分が、まだ具体性を欠いている段階ても、説得力を持ってくるのだと思う。
 ゲーム悪玉論は、評論家などの直感的判断によって始まった。(ただ、僕は評論家がしばしば行う直感的判断をあまり否定はしていないが)。作者はこうした批判に応えるために「ゲームでも自己同一性が得られるのではないか」という難しい命題をテーマを立てている。このテーマには本書の中で答えは出ていないが、僕は、こうした視点を持つことは「文化の中でのゲームの位置づけ」を考える上で不可欠なものだと思う。
 「ゲームの大学」(平林久和・赤尾晃一、メディアファクトリー)とともに、ゲームについて考える人にはお勧めの1冊だ。(97/1/5) 


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