インターネットはからっぽの洞窟(クリフォード・ストール、草思社 2266円)

 実務家の言葉は説得力がある。ネットワーク歴15年で、ハッカーを追いつめた経歴を持つ作者は「不必要」なまでにコンピューターとネットワークへの夢を煽る政府や企業などを辛口に批評する。作者の本業は天文学者だけあって、批判する場合にも科学者らしく事実を重んじる姿勢を貫いている。
 作者の行っている作業は、インターネットが「裸の王様」となろうとしていることに歯止めをかけようとしているようだ。「裸の王様」は子どもが素直に「裸」と言えばすべてが解決された。しかし、インターネットの場合は、着ている着物が非常にもっともらしいため、これは「見えない着物」ではなくただの裸であるというのを証明するのは一苦労だ。例えば、一日何百通とも送られるメールは果たして必要なのか?、ネットは低コスだと思われているが公的に運営されている部分を含めれば実際はどうなのか?など、常識を疑いそれを否定するにはちゃんとした裏づけが必要だ。
 作者は電子メールと郵便のシステムを比較するのに次のような方法を採用した。数千キロ離れた地点から弟に2カ月間手書きで葉書を送ってもらい、それと並行して自分の5台のマシンから自分あてにメールを送信するのだ。その結果、葉書は平均3日弱で、電子メールは平均12分ほどで届くと出た。ただ、電子メールは5通が結局届かないままだった。こうした事実を積み重ねる姿勢の下、作者はインターネットの教育への応用や図書館のオンライン化などの流れにも、疑問を示す。「高速道路を作っても車が増えて結局渋滞はなくならない。バックボーンを強化してもファイルサイズが巨大化すれば、結局同じことになるのでは」とうい指摘にもうなずけるものがある。
 「タコがグニャグニャしているっていわれても(オンラインでは)手触りはわからなかった」。本書の教育に対する部分で引用されている児童のコメントだ。これはそのまま少し変えれば作者の言葉に置き換えることももできるだろう。「インターネットは便利だといわれているけれど、実際はどうなのかわからない」。作者はこの疑問に実務家として自ら答えようとしたのだろう。
 ただ、作者の強調するリアルな現実は必要なものの、そこにこだわるのはもう難しい時代になっているように思う。我々の得る情報は全てテレビ、雑誌などを通じて得られている。この中でインターネットだけがオンラインだから、実際に体験することができないメディアという「欠点」を指摘をするというのは、やや苦しい論拠のようにも感じる。(97/02/05)


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