文藝(春号)について


 文藝春号がテーマコラムで「新世紀エヴァンゲリオン]を特集。筆者は田崎英明、篠原一、赤坂真理、滝本誠、東浩紀。コラムなのでそれぞれの個人的な体験から、エヴァが何故気になるのか(あるいは、面白いのか)を展開していた。その中では東浩紀のコラムがいちばん的確な内容だったと思う。アニメ作品では「感情移入」が非常に重要で、エヴァではまず作品(登場人物)など)に対してファンが感情移入しやすいように意図的に仕掛け、その上でさらに庵野秀明監督に感情移入するような2重構造になっている、というのが東氏のコラムの趣旨。
 ファンがアニメの見るという行為には「感情移入」が重要な意味があるという指摘はまったく同感。ただ、少し異論をさしはさむなら、東氏の「感情移入」は、あえてなのかもしれないが、やや狭い否定的なニュアンスで使われ過ぎていると思う。東氏は「感情移入」を「同人誌の世界に転用できるかどうか」という基準で見ているが、本来はそこにいくまでの気持ちの流れこそが「感情移入」ではないかと思うのだが。作品世界はマンガチックでも「感情移入」できるように丁寧にキャラクターを描いた結果、ドラマとして完成されたものになったアニメは、数は少ないながらあるからだ。
 そのほか、田崎氏は主人公たちの不条理な運命と民族紛争を照応させた内容で、篠原氏は後半物語が壊れていく時が「文学してたかもしれない」と若者らしい感想。赤坂氏はバンクカットの多様が結果的に強迫神経症を描くのに有効だったという指摘をし(これはこれで興味深い)、滝本氏の文章は楽しそうだけれど、僕にはよく意味がわかりませんでした。

 そのほか、文藝春号では「澁澤龍彦とシブサワ系」「電波系のサイコロジー 村崎百郎×香山リカ」
といった特集もあって、文芸関係に疎くても楽しめる内容でした。(97/1/12)


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