国際人道法と人権法

 よく取り上げられる「国際人道法」とは一体どんなものでしょうか?

「国際人道法」と名付けられた法律は存在しません。
そもそも,国際法は国と国が約束事を決めて取り交わすものです。
さまざまな条約の総称と考えてください。
ちなみに戦争時(軍隊が用いる用語)では,「戦争法」「武力紛争法」と呼ばれています。

これを守る責任は国と個人の両方にあります。

この条約の内容を尊重し,守ることが国家や政府だけでなく,
国民である一人一人の個人の責任として課せられています。
違反すれば,個人もその責任を負うのです。
そのために,条約の内容を個人に普及させることが重要になり,
普及の責任を国家に義務づけています。(1949 ジュネーブ第4条約第144条他)


2つの基本ルールがあります。

@ どのような時も,人間を人間らしく取り扱うこと
A 
どのような時も,戦う方法や手段は無制限に許されないこと

つまりこれは「戦いという極限の状況下でも,人間として守るべき最低限のルール」を表しています。

○では,許されない戦闘手段とはどんなことでしょうか?
・戦闘に参加していない人々を目標とするもの
・戦闘に参加する人々保護される人々を区別しないもの(例;地雷)
・必要以上の障害や,無用の苦痛をもたらすもの
・自然環境に長期的,かつ深刻な損害を与えるもの(例;生物・化学兵器)

保護される人々とは?
・戦闘に参加していなければ,性別,年齢,宗教,人種,その他いかなる基準により
差別されることなく,すべての人が保護の対象です。武器を持って戦闘に参加した軍人であっても,
負傷,降参などの理由で武器を手放した人は,すべて保護の対象となります。

保護されるものはあるのでしょうか?
・病院以外にも特定の場所やものが保護されなければなりません。
(1977年の第1追加議定書第53条ほか)
@人々の生存に不可欠なもの(家畜,飲料水供給施設,農地など)
A歴史的建造物
B礼拝所
C破壊されると人々に重大な損害を与えかねないような,危険な威力を内蔵する施設
 (例;ダム,堤防,原子力発電所など)

最近の紛争で,守られていないことがいかに多いか,
そしてその原因はどこにあるのか,
われわれが学ぶべきことは何なのかを
はっきりさせておくことが大切です。



まとめ;国際人道法の4つのポイント

@ 武力紛争の際にも適用される国際法
A 戦いという状況下でも,人間として守るべき最低限のルール
B 1949年のジュネーブ四条約と1977年の2つの追加議定書が中心
C 保護されるのは,戦闘に参加していない全ての人

<国際人道法>○ 武力紛争時に適用(戦争時)
・紛争が行われている期間という,1時期にのみ適用されるもの

 ◇1864年〜
 ◇ジュネーブ条約,ハーグ条約ほか
 ◇赤十字(ICRC)のイニシアティブ
 ◇より緊急度の高い法
 ◇「戦争法」「武力紛争法」とも呼ばれる

<人権法>○ 全ての状況下で適用(主に平和時)
・人が生まれてから亡くなるまで常に適用が可能なもの。
 年齢の条件によって適用を受ける内容は変わります。

 ◇1948〜
 ◇世界人権宣言ほか
 ◇国連のイニシアティブ 

 


国際人道法の基本ルール

 赤十字国際委員会の元副会長であり,ジュネーブ諸条約や赤十字の基本原則の草案作成にも携わった
ジャン・S・ピクテ氏は次のように言っています。

「人道主義は,あらゆる主義主張を持つ人々が出会い,互いに友情の手をさしのべることのできる,
まれに見る分野の一つであり,この根本理念は,全ての偉大な宗教の中にほとんど同じ形で
見いだされるものである。またそれは,既存の宗教の教えではなく,自分自身の理性のみに依り頼む
実証主義者にとっても認めうる理念である」

その心は「自分がしてもらいたいことを隣人にもしてあげること」と言っています。

 

以下の7つのルールはICRC(赤十字国際委員会)が,何百条にもわたる条文をわかりやすくまとめたものです。
戦闘行為においてかかれていますが,普段の社会に当てはめても十分通用すると思いますが,いかがですか?

 

1 戦闘や敵対行為に加わらない人の命と尊厳を大切にし,いかなる場合でも差別せず,人道的に取り扱うこと。

2 降伏したり,戦えなくなった的の軍人を殺したり,傷つけてはいけないこと。

3 戦いに参加しているものは,互いに傷病兵を収容し,看護,治療しなければならない。
  また,そのための衛生要因や施設,車両,船舶,航空機,機材を保護する赤十字と赤新月の標章を保護し,尊重すること。

4 捕虜や抑留者の命と尊厳,そして個人的権利と信念を尊重し,いかなる暴力や報復からも保護しなければならない。
  また,彼らは家族と通信し,救済を受ける権利をもっていること。

5 いかなる人も公正な裁判を保障され,自分がやっていないことの責任を負わされることはない。また,拷問や体罰,残虐で品位を汚す扱いを受けることはないこと。

6 戦いに参加している者は,戦闘方法や戦闘手段を無差別に使うことは許されず,不必要で過度な損害や殺傷を
  引き起こすような兵器を使ってはいけないこと

7 戦いに参加している者は,常に民間人と戦闘員を区別し,一般の人々とその財産を保障し,攻撃してはいけないこと。
  また,攻撃は軍事目標だけに限定されること。


違反した者の処罰

国際人道法は他の国際法と違って,直接個人の罪を問うことができます。
オランダのハーグにある国際司法裁判所では国家のみが裁判の当事者です。個人は裁判の対象とはなりません。
内戦が多発する現在,常設の国際刑事裁判所の設置が求められています。
<関連事項>ICJとICC

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