続・きれいなお城


休日の夕方、とはいえまだ早めの時間。セレスティアの出口付近。
仲良さげなカップルが行き交う中に、あのカップル、見つけましたよ。
ティムカとアンジェリーク・コレット。
執務がお休みの日に、お忍びでデートのようです。
今日はティムカ、普通に私服みたい。スタンドカラーがちょっと民族色をかもし出してよくお似合い。
前回の執務服みたいに目立つことも無いし。
普通の少女風なコレットと、なかなか絵になるカップルです。
高校生カップル、みたいな。
でもね、向う先は、ちょっと高校生には早いような。それともイマドキはそうでもないのか?
はい、この話、前回の続きですから。
今日はセレスティアのデートを早めに切り上げて、寄ってくみたいですよ。
あの、「お城」に。
以下、コレット独白音声も、同時中継でお伝えします。

◇◆◇◆◇

ああ、念願の『お城』
前回のデートで、あのお城は何かって聞かれた時にはどうしようかと思ったけど、無事理解してもらえてよかった。
やっぱり、あの時のアドバイス通り、チャーリーさんに聞いたのかしら。
なんだか、ユーイとメルと、三人でヘンなこと聞きまわってたっていう噂も耳にしたけど……。
まさか、違うわよ、ね?


あー、その経緯については「おしろのなぞ」を読めばわかると思うけど。
コレット、君は知らない方が幸せだと思うぞ。
でも彼は、とてもよく頑張ったと思うから、その結果だけ評価してあげてくれ。
そして甚大な被害をこうむったルヴァ様あたりに、機会があったらねぎらいの言葉をかけてあげてくれ。

ま、いっか。
それよりも、ちょっとドキドキしてきちゃった。
なんだか、入るの、照れくさい、わよね?


入り口は目立たないのが相場だけど、確かに照れくさいわな。
ほら、ティムカも同じみたいだよ?
「なんだか、緊張してしまいますね。ふふっ」
とか言ってる。
でも、その『ふふっ』がけっこう余裕かましてるように聞こえなくも、ない。
つうか、余裕かかましてるだろ。オマエ。

さて、そんなんで手をつないで、コレットは照れで頬染めつつ。
ティムカは何気に余裕綽々で。
ふたり仲良くやってまいりました、きれいなお城。
定番のあまり目立たない入り口。ドアはこれまた定番の、曇りガラスですな。
入ったその先に。
パネルが、あります。

内装は、普通の …… ホテルかしら。
ああ、でもフロント前に仕切りがあって、人の顔が見えないのと、薄暗いのがいかにもって感じかな。
で、このパネル、何?
なんか、部屋の写真と、値段が書いてある。けど ……


「これで、部屋を選ぶんですね。聞いた通りのようです」
チャーさん、事前教育ばっちりだね。素晴らしい。
「何か、ご希望はありますか?」
「え、えーと」
希望って聞かれてもねえ。
結構困るよね。
ふたりとも、どうしたもんかとちょっと悩んでいる様子。
ふと、ティムカが何かを思い出したようです。

「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」
「え、ええ、私にわかることなら ……」
コレットもドキドキもんだね。知ってても迂闊に返答できないネタが満載だから。ここ。
そんなコレットの緊張をよそに、ちょっと照れたような笑みを浮かべて。

「回転するベッドがあるって本当ですか?」

「―― はい?」
うわあ。
いきなりきましたか。
コレットもつい、間抜けな声出して聞き返しちゃいました。
ちなみに、独白音声、こんな感じ。

か、回転ベッドですかっ?
初回利用時から、いきなりそんなマニアックなものいくの?
それが、希望なのっ?
ていうか、何故そんなものを知っているの?
私、それが実在することを回答していいのっ?
来るのは初めてだけど、存在を知っている自分が憎いっ!

ああ、混乱してる。
でも、一通り、大混乱したあと、ちょっと、冷静になったみたいです。

あ、あれ?
でも、『本当ですか?』っていってるってコトは、本当かどうか知らないっていうことよね。
もしかして。
チャーリーさんに教えられて、冗談なのか本気なのか判断つけかねてるってのが真相かしら。
それなら、ありうるわ。
それに、回転ベッドって、もう無いのよね?
数年前に回転する部分にシーツが引っかかって故障して、それが原因の火災が起きてから、確か防火上の理由で禁止されたんじゃなかったかしら?

詳しいな。コレット。そのとおりだよ。(←事実)
そんなわけで、いまどきそんなベッド置いてるところは法律違反だからやめといた方がいいぞ。

さて、ティムカはコレットの反応を都合よく解釈したようで。
「そうですよね。ないですよね。チャーリーさんがいろいろ教えてくれたんですけれど……。彼の場合、何処までが冗談で何処までが本当なのか少しわからなくて。でも、きっとその部分は冗談だったんですね」
にっこりとする、その笑顔。

ああ、その笑顔。
そうやって笑うと、十三歳の頃とあまり変わらなくて。
まるで穢れ無き天使のよう。
ちょっと耳年増な自分に自己嫌悪 …… 。

穢れ無いわりに余裕かましてるけどな。

コレットも、心中は別として、笑顔で言います。
「そう、きっと冗談よ。でも、やっぱり、チャーリーさんが色々教えてくれたのね」
「ええ、初めて聞きに行った時は軽くだったんですけど、そのあと色々ご享受頂いて」
ちょっと、苦笑気味。その次点で、真実かどうかよくわからん情報吹き込まれたんだな?
でも、回転ベットの例から見るに、意外と全部本当のことかもよ。
それよか、チャーリーが後日何故そんなに詳しく教えたかを考えた方がいいぞ。
君らのおしのびデートの噂を聞いて、気を利かせたんじゃないか?彼なりに。
感謝しておけ。
いい仲間じゃないか。水と炎円満万歳。

さて、そんなこんなで無事お部屋選びは終わりました。
結局中間の値段の、ちょっとエスニックテイストなインテリアのお部屋。
まあ、馴染んだ雰囲気なんでしょう。なんか、彼の執務室奥私室に似てるし。

上の階へ向おうとして、エレベーターを待ちます。
やってきたエレベーター。
ありゃりゃ。
お帰りのカップルさんとすれ違い。
なんか、気まずいんだよねー。これ。
コレット、ちょっとティムカの後ろに隠れちゃったりして。
大丈夫だよ。向うも照れて、そんなに別カップルのことなんか見ないからさ。
ああ、でも。

ああ、でも。
今日は彼が。

執務服でなくてよかった。

それは、同感だね。切実に。
あの服、目立ちすぎですから。
つうか、前回デートで執務服だったものを、今回私服できたのって、こういうことを想定してなんじゃ。
抜かりないなぁ。これも、チャーリーの入れ知恵なわけ?

まあ、無事に部屋に到着。
ふたりとも、流石にものめずらしそうに部屋の中を見回してます。

あ、ゲーム機や、カラオケ、自動販売機まである。
すごいのね〜。
自動販売機の中身は…… 飲み物と、お菓子と それと。
それと。
…… これって。

あー、お約束。大人のおもちゃってやつですね。
コレット、恐る恐るティムカの方を振り向いてる。
これはなんですかって、聞かれるのを明らかに恐れてます。
ティムカは飲みものを二つ買って片方をコレットにわたしつつ、自販機の中のおもちゃを見やって。

「こちらは必要ありませんね」

と、にっこり。
はいはい、お見逸れしました。ご存知でしたか。何処で知ったかは聞かないでおきますが。
ま、現段階で必要ないのは確かですよね。
でも、いつかマンネリして必要になった時も、SMはやめてね。
コレットが女王様じゃ、ただの駄洒落ですから。

彼女がほっとしたのもつかの間。
ティムカ、質問タイム。
こんなときだけ、微妙にユーイとかぶります。

「あの、何度も申し訳ないのですが、聞いていいですか?」
「え、ええ。私にわかることなら …… 」

こ、今度は何っ。
何が来るのっ!


コレット、臨戦態勢。
さあ、くるぞ!

「主星の一般家庭のお風呂って、あんなふうに硝子張りなんですか?」

ありえねえカラ。それ。

え?ガラス張り?
それって、どういう …… 。
き、きゃああああああああっ。
な、なんで、お風呂の中が丸見えなのっ?
そ、そういうものなのっ?


まあ、ラブホだったら、スタンダードだとは思うが。

「あ、あのっ。な、なんでガラス張り……」

真っ赤になったコレットの様子をみて流石にティムカも察したらしく。
「ああ、やはりあれは特殊なんですね。そんなに慌てなくでも大丈夫ですよ。ほら、ブラインドがついていて目隠しできます。ね?」
ブラインドを下ろして、コレットを抱き寄せてます。
あー、キスしてますから。
そろそろらぶらぶモード突入です。まね、三時間だから。時間は有効に使いましょう。
耳元でなんかささやいてますよ?

「それとも、一緒に入ってしまえば硝子張りでも関係ありませんよ」

コレット耳まで真っ赤。

「ふふっ。そこまで赤くなられてしまっては、今回は冗談にしておきますね。先に、シャワーを浴びてきてください」

ふーん。
『今回は』ですか。
完全にティムカのペースです。
コレットちょっとふらふらしながら、シャワールームへ消えてゆきました。

◇◆◇◆◇

シャワーを浴びて、脱衣所でガウンを着つつ。

そっか、ちゃんとガウンが用意してあるんだ〜。
なんだか、女性用だけ丈が短いのは …… そういうものなのかしら。

たぶん。たまに、男性用も短かったりする。あれはマヌケだ。

ちょっと恥ずかしいけど、しかたないわね。
それと、用意しておいた交換用の下着つけて。

…… 準備がいいな。

…… でも。
この場合って、わざわざ下着なんかつけないものかしら?
いや、でも。
つけてなかったらそれはそれでいかにもだし。
でも、ラブホ入っといて、いかにもも、いかにもでないも、無いかしら。
というか、ここでつけるとこの下着もあとでもう一度穿くのって抵抗あるなあ。
…… こんどから、交換用の下着は二枚用意しなくっちゃ。
ま、今日は諦めて。
穿いておこう。

そうか、穿くのか。
まあ、脱がすのも楽しみのうちだろうしな。

さて、交代して、彼がシャワー浴びている間は、ちょっと手持ち無沙汰。
アンジェリークはソファーに座って、ドリンク飲んでます。
そうこうするうちに、さあ、出てきましたよ。
おお。
ガウンじゃなくて、腰タオルですか。
そうですか。
(以前Aさん宅からお持ち帰りさせていただいた腰布ティムカ発展バージョンですから!)
上半身の浅黒い肌に程よく引き締まった筋肉がいい感じです。

アンジェリークに微笑みかけて、抱き寄せて。
しばらくキスしたあと、抱き上げてベッドの上へ運んでいきました。

「あの、明かりを……」

まだ晧々と照ってるので、コレット気になるようです。
だいたい、ベッドのヘッドボードのところに調整用のスイッチがありますよぅ。
彼も見つけたようで、調整しようとスイッチに手を伸ばして、そこで。
…… 何かに気付いたようです。

「これは ―― 」

そそそそそ、それはっ。
そのゴム製品はっ。

あれですね。
『いま生まず、今度生むから、コンド(以下略)』ってやつです。
だいたいおいてありますってば。二回分ほど。
コレット慌てまくってます。

ちょ、ちょっと待って。
この期に及んでこれはなんですかって聞かれたら答えようがないわ。
何かは知ってるけど、具体的な装着方法までは流石に……ああ赤面。
ていうか、初めてのときは勢いでなにも対策してなかったから流石に問題だと思って、そのあと私が薬飲んでるからそっちの心配はないんだけど。
それでも、この件をきちんと話し合ってないのは問題だったって、それは認めるわ。
でも、ほら、彼の場合、経験豊かだったのは後継ぎという問題があったからと推測すると、避妊なんてそもそも想像もついていないんじゃないかと思うわけで、なんだか言いそびれちゃって。
でも、このタイミングで知識をつけてもらうのはいいかも。
って、誰に教えてもらえばいいのよ!

(前回と同じように、あらゆるメンバを想定しては却下してます。同じ内容のため省略)

そ、そうよ、前回の救世主チャーリーさんに……。
ってだめよ!流石に、今回はだめよっ!

蒼白になっているコレットに、ティムカ笑いかけて。
「こんなものまで用意してあるなんてすごいですね。驚きました。でも、使い慣れてるのを持ってきてあるので ―― 」

「…… え?使い、慣れて……?」

あっけに取られているアンジェリークを、しばしみつめたあと、納得したように微笑んで。
そして優しくキスをしました。

「以前から利用していましたよ。気付きませんでしたか?」

―― 16歳、元王様。女性に気付かれず装着するその神業に脱帽です。


―― オシマイ。

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超・シリアスを書くと、ギャグ神様が降りてくる法則、やはり健在。
(「それぞれの夜明け」「蒼穹の空を見上げて」「舞姫」三連荘だったからね〜)

あああ、私の書きたいティムコレはシリアスなんですっ!
紆余曲折の末にやっと結ばれる、そんな切なくて甘いラヴストーリーが書きたいんです!
本当だってば!!

え〜ん(号泣)。

しかし、いいかげん虚無行きにしようよ。>自分

2004.12.17 佳月拝