おしろのなぞ


■彩雲の本棚にある「きれいなお城」とあわせてお読みいただくと
いっそうバカっぽさが増すかと思われます。
ていうか、やっぱりあの話は虚無行きか?


聖獣の宇宙。
いいかげんあいかわらずな日が続いています。
まあ、話題といえば、コレット女王陛下とティムカがお忍びデートしてたって噂があったな。
メル、水晶球で追跡して密着レポを『聖獣聖地タイムズ第3号』で発表してくれないだろうか。
以前匿名で誰かが書いたクラッシュネタの2号は、衝撃的だったぞ。
さて。
ティムカとメルと、ユーイ。
聖獣の宇宙お子様トリオ。
お子様というには一部微妙だが。
仲良くお茶を飲んでいるようです。
いつもと違うのは、新たに加わったお子様じゃない、セイラン。
どんな、会話をしているんだろか。
気になるっつうか、怖いんですけど。

◇◆◇◆◇

「じゃあ、ルヴァ様はターバンが後って意見が多いんだね」
おまえら、まだその話題なのか。
ていうか、意見が多いってことは、聞き込みしたのか。
「そうだよきっと、じっちゃんの名にかけて。真実はいつもひとつ」
ユーイ、それ台詞微妙に違うから。しかも、混ざってるし。

セイラン、お茶を飲みながら無関心そうにして一言。
「君たちは、お茶飲んでいつもこんなくだらない会話をしているのかい?」
「いつも顔を出して突っ込みを入れた挙句、結果一緒にお茶飲んでるあなたも同類です」
この勝負、ティムカの勝ち。
「言うようになったじゃないか」
セイラン、何気に嬉しそう。
「おかげさまで」
にっこりと笑うティムカ、どことなく黒リュミを彷彿とさせるよ。
やはり水の守護聖の伝統なのか。

「ところでさ、話かわるけど、ちょっと気になってることがあるんだ」

さあ、来ましたよ。お待ちかね、ユーイの質問タイム。
「セレスティアの外に、ヘンなお城の形の建物できたろ」
きたきたきた。キター。
「あ、できたね、僕もあれなんだろうと思ってたんだ。ティムカ、知ってる?」

話を振られて、ティムカ、しばし、間。

「―― 知りません」

その間、何?
今の間、何考えたの?
あれでしょ、このあいだコレットとデートしたときのこと思い出したんでしょ。
んで、チャーリーに聞け、と言いにくそうに言ったコレットの言葉を思い出して、嫌な予感に駆られてるでしょ。
そうだよねえ、わざわざチャーリーを名指したってことは、それ以外にこの話題を振るのは望ましくないってことだもんねえ。
察しのいい君ならそのくらいは気付くはずだ。
たとえ、アレが何だか知らなかったとしても。

「そっか、ティムカが知らないとなるとお手上げだな」
セイランは無視ですか。
まあ、セイランあいかわらず興味なさそうにそっぽ向いてるしな。
でもきっと、耳はダンボ状態で会話に聞き入ってると思うぞ。
「実は、事前調査でレオナードとフランシスには聞いてみたんだ」
「えっ、すごい、ユーイ!」
だんだん、知恵ついてきたな。
しかし、それでもわからなかったと言うことは、いったいどんな回答だったんだ。
ティムカも興味あるらしく、身を乗り出してます。

「レオナードに聞いたら『お子様にゃ、100億年早ェよ。ムケたら来やがれ教えてやる』だって。余計、謎が増えた。『ムケたら』ってなんだ?」
セイラン、肩を震わせて声も無く笑ってます。
「うーん???」
メル、わからないのか。種族が違うから構造違うのか。
ティムカは無言だが、微妙な表情だな。
それは、レオナードが嫌いだから無言なのか、それとも今の一言で話題の傾向を読み取ったか。

「フランシスは『そう……ですね。かりそめの、偽りの夢を……見る場所とでも、申し上げておきましょう』ってさ」
「僕には、余計わからないよ、それ」
「俺もだ」
聞く相手間違ってるよ。絶対。でもふたりとも嘘は言ってないからすごいよな。

「くっ」

セイラン、声殺して笑うの耐えられなくなったらしい。
ああ、もう、爆笑してます。涙浮かべてるよ。
「その反応を見るとセイランは、知ってるのか。なんなんだ?あれは」

「さあてね、簡単に謎の答えが見つかってしまっては、人生面白くないとおもわないかい?」

そんなこと言って、セイラン、彼らが聞いて回って起こるであろう騒動を楽しみにしてるだろ。
ぜったい、そうだろ。
「そうだね、実は、この後マルセル様に渡す書類があって向うの聖地に行くつもりだったんだけど」
「お、かわりに行くぞ。この書類だな?んで、向うの聖地のやつらにも聞いてこよう」
すっかり、手の上で操られちゃって。
マルセルってのも狙ってないか?セイラン。
まあ、緑の守護聖同士、やり取りする書類があっても不思議じゃないけど。
でもねぇ。

「よし、善は急げだ。いまから行くぞ!ティムカとメルも来るよな?」
「え?い、いや、私は ―― 」
「うん、もちろん僕達も行くよ」
ティムカの意見、無視されてます。あーあ、引きずられて行っちゃった。
セイラン、ひらひら手を振って見送ってます。

「報告を楽しみにしてるよ」

◇◆◇◆◇

やってきました神鳥の聖地。
まずは書類を届けにマルセルの部屋へ。
三人が部屋に入ると

「もう、やめてよふたりとも」

お約束の台詞だ。なんだ、好都合。ゼフェルとランディもいるじゃないか。
なんか、口論しててマルセルに止められたところだったらしい。

「あれ、どうしたんだい、三人そろってマルセルに用事かい?」

顔を出した聖獣お子様三人組に気付いて、ランディ笑顔になりました。
喧嘩は一旦中止か。
ユーイがセイランからだと、マルセルに書類を差し出してる。
「なんだあ?おまえら、パシリに使われてんのかよ。けっ、だっせー」
「いや、皆様に聞きたいことがあってさ。書類はついで」
どっちがついでか間違ってないか?ユーイ。まあ、いいけど。
ランディ、ちょっと身構えてます。そうか、以前、ケ騒ぎで餌食になったからな。
かわりにマルセル。
「どうしたの?僕たちに聞きたいことって。……ティムカ、何考え込んでるの?」

ひとり入り口の横で腕組んで考え込んでいるティムカ。
「あっ、い、いえ、なんでも。なんでもありません」
―― 怪しいな。

「あのね、セレスティアの出口近くに今度できたヘンなお城の形の建物が何かって話なんだけど」

さあて神鳥お子様三人組の反応は如何に?

「ああ、あれ。僕もなんだろうって思ってたんだよ。なんだかメルヘンチックだよね」
やっぱりそうきたか、マルセル。意外と知ってるかもとも思ったんだけどな。
「マルセル様もわからないのか。じゃあ、ランディ様は?」

「えっ、ええと、あ、あはははは。ゼフェル、任せた」
「お、オレに振るか?! えええと、なんだ?アレは、そのっ。だぁぁぁ」

このふたりは、知ってるらしいな。でもまあ、まともに回答できるとは思ってないけど。
「ランディ?ゼフェル?ふたりとも、ヘンなの」
「うーん。ここでも有効な回答は得られないのか。じゃあ、今度はジュリアス様の部屋から順番に ―― 」

「だぁっ、や、やめろ、それだけは、やめろ」
そこで止めてくれるゼフェル、やっぱり君はいい子だ。
「そ、そうだな、もしかしたらあれが何かご存知無いかもしれないし」
ランディ、その発言はどうかと思う。
「もしかすっと、クラヴィスあたりなら意外と的確な回答が得られるかもしれねえぜ」
「でも、会話をするのが難しそう。自信ないや、僕」
メル、気持ちはわかる。
「メル、君なら、水晶球での占いの話題からはじめてみたらどうだい?」
「無理です」
即答かい。

「ゼフェル様、知ってるみたいなのに、どうしておしえてくれないんだ?」
色々な事情があるんだよ、ユーイ。
「う、うるせえ。あっ、そうだ、アレだ。―― ルヴァに聞け」
「あっ、そうだね、ルヴァ様ならきっと丁寧に教えてくれるよ。そうしなよ。わかったら、僕にも教えて」
マルセル、これで解決って顔してる。
あーあ、ルヴァ、可愛そうに。

そんなわけでルヴァの執務室。
「あー、いらっしゃい。めずらしいお客さんですねえ。どうしましたか?」
あー、癒されるね。
いい人だよ。さっきまで、ターバンをネタにされてたのに。
まあ、当人は知らないんだろうけど。

さあ、ユーイ、聞きます。
「ターバンとどっちが最後 …… じゃなかった。セレスティアのお城について知りたいんだ」
ターバンネタもかなり気になっているらしい。

「あー、あの古城のことですか?あれはですねえ、まだセレスティアができる前からある歴史ある建築物で、非常に学術的価値のある建物なんですよ。様式は神鳥の宇宙で言うと惑星サラトーヴの400年ほど前のものと非常に似通っていて。その類似点と言うのは ―― 」

だれか、止めろ。

「あ、違うんです。僕たち、セレスティアの外に新しくできたお城が何なのか知りたくて」
「はあー。外ですか?」
ルヴァ、考えてます。考えてます。
顔が赤くなってきました。
ああ、今度は青くなっちゃった。
リトマス試験紙。

「えー、ええっ。えええええええー?!」

混乱してますから。
ねえ、かわいそうだからこの辺でやめてあげようよ。
混乱してるルヴァ様、可愛いけど。(←誰も聞いてねえ)
あ、深呼吸しました。
ルヴァ様何か言おうとしてます。

「コ、コウノトリが運んでくるんですよー」

飛躍しすぎです。
ていうか、またそのオチかい!

◇◆◇◆◇

三人、ルヴァの部屋から出てきました。収穫ナシ。
「なんだか、誰に聞いてもわからないなあ」
「そうだね。なんか、似たような反応ではあるんだけど。妙に慌てて」

「―― オリヴィエ様に」

「え?」
ユーイと、メル、同時にティムカを見てます。
ずっと黙ってたもんね。ティムカ。
なんか、真剣な顔してる。

「オリヴィエ様に、聞いてみましょう。きっとあの方なら ―― 知ってる気がするんです」
…… 確信犯?

そんなわけで、隣の部屋だし。オリヴィエんとこ行きましょ。
ああ、これでやっと解決だよ。
って。あ。向うからオスカー。リュミエールもやってきたよ。

「オリヴィエなら、今留守だぜ。めずらしいな、坊やたち」
「あっ、リュミエール様! オスカー様もこんにちわ」
メル、何故、リュミへの挨拶が先なのだ。
「こんにちは、メル。そして、ユーイとティムカも。どうしたのですか?」
ああ、美しい微笑み。
ルヴァ様とは違った意味で癒されますな。

「ああ、実はセレスティアのお城 ―― 」
「な、なんでもありませんっ、リュミエール様!」

「―― ティムカ?」
あまりの慌てようにみんな怪訝な顔してる。
「ほう、ティムカがそういう慌て方をするのは珍しいな」
オスカーなんかニヤってますけど。
そういえば、オスカー、ティムカのことはあんまり坊や扱いしないんだよ。何故か。
あれっすか、あなたの坊やかどうかの基準って。
経験値の問題なんっすか?

「お城ってのは、あれか。最近できた ―― 」
「ほ、本当になんでもないんですっ。お手間取らせてはいけないから、戻りましょう。そろそろ!」

ティムカ、ふたりを引きずって。聖獣の宇宙に戻ってきちゃった。

「どうしたんだよ、いったい」
「そうだよ、オスカー様、知ってそうだったのに」
「あ、あの、そうだ、そろそろ昼休みもおしまいの時間だし、帰らないといけないと思って」
「でも、まだ時間があるぞ。よし、今度はヴィクトールだ!」
「ヴィクトールなら、一番年上だから知ってそうだね!」
まあ、知ってるとは思うけど。
楽しそうに駆けていっちゃったふたりをため息をついてから追いかけていくティムカ。
それでも追いかけていくあたりが律儀だ。

ティムカが執務室に追いつくと、ヴィクトールの声が聞こえる。
「おまえら、そんなことに興味持つくらい元気があまってるなら、体でも鍛えろ!」
いや、ヴィクトール、こいつらは、『そんなこと』がどんなことかわからないから聞いてるんだって。
ユーイとメル、怒鳴られて部屋から出てきました。
「なんだかよくわからないうちに怒られちゃった……」
メル、しょげてる。耳もすこししょんぼりしてる。
小動物系可愛いさ。小動物の割にでかいけど。

「みなさん、何をしでかしてヴィクトールを怒らせたんですか?廊下まで声が響いていましたが」
「あっ、エルンスト。あのね」
メルの耳、復活。
「セレスティアの外に新しくできたお城のことを聞いたんだ」
「ああ、あれですか」
エルンスト、顔をしかめた。
「あれは私も問題だと思っていたのです。著しく風紀を乱して。そもそも都市計画法に準拠しているかすら怪しい。調べてもし違反しているようなら撤去を求めるのもひとつの方法かと ―― 」

「そ、そこまでしなくても大丈夫だと思いますよっ、エルンストさん!」

ティムカ慌てて止めてる。
やっぱり、さっきから反応へん。
オリヴィエに聞こうと言い出したり、リュミとオスカーに聞くのやめたあたりから。
あれだろ?
リュミにドリーム持ってるから、その手の話題は聞きにくかったんだよね?

「ねえ、慌てちゃってどうしたの?ティムカ」
「もしかしてあのお城がなんだかわかったのか!」

たぶん、そうなんだと思うよ。
これまでの面々の反応から、ある程度の推測はついてるんじゃないかな。
残り、彼が必要としてるのは、決定的な確証だけとみた。
んで、撤去発言に対する反応を見るに、せっかくだから次のデートで有効活用しようとか、思ってないか?

「そ、そんなことありません。あ、これで失礼しますねっ、エルンスト」

またふたりを無理やり引き連れて、その場を離れちゃった。
時間切れ故に戻ってきた中庭で、ひとりお茶をしながら待っていたセイラン、いかにも楽しそーに笑って。

「やあ、おかえり。有効な時間は過ごせたかな?」

「それが、さっぱりだ」
「みんな、よくわかんないこと言って逃げちゃうんだよ」
「まあ、そうだろうね。あれ、でも向うの聖地の中堅陣なら、教えてくれたんじゃないのかい?」
「そう思ったんだけど、オリヴィエ様はいらっしゃらなかったし、リュミエール様やオスカー様に聞こうと思ったら、ティムカがやめようっていうんだもの」
ああ、セイラン、すっごいたのしそーな、いじわるそーな顔で笑ってティムカ見てます。

「へえ、どうしてだい?彼らならきっと教えてくれただろうに」

この勝負、ティムカの負け。

◇◆◇◆◇

さて、昼休み時間が終わっちゃったので、お茶会はうやむやのまま解散しちゃいましたが。
今回は特別にティムカを追跡してみましょう。
執務室に戻る途中、ふと隣のチャーリーの部屋に目に止まったみたい。
扉の前で、深呼吸してる。ああ、聞くつもりなんだね。
っていうか、はじめから彼に聞けばよかったのに、巻き込まれて大変だったね。
ノックして入ると、あらま、先客がいる。オリヴィエだ。

「あらら、ティムカもチャーリーに用事?じゃあ、私はこれで失礼しちゃお。じゃね」

ティムカ、オリヴィエの後姿を見送りながらちょっと脱力してます。
一番マトモに答えてくれそうなふたりに、最後の最後に会えるなんてね。
まあ、人生そういうものさ。

「どうしたん、ティムカちゃん、そない思いつめた顔して。ほれ、笑顔、笑顔。人生笑顔が基本やでえ」
「ええと、折り入って、お聞きしたいことがあって。仕事の話ではないんですが」
「かまへんで」
ティムカ、もう一度深呼吸。さあ、聞け!

「セレスティアに、新しくできたお城の形の建物。あれが、なんなのか、知りたいんです。はっきり、きっぱりと」

「ああ、あれな。いいトコにできたなぁゆうて、思とったところや」
あれ、チャーリも使うアテがあるんすか?
相手は誰だ?
「守護聖なる前は目えつけてたん。ぜったい、あの場所、ぼろもうけやでー」
そういう意味か。
「あのう ……」
ティムカ、ちょっと焦れてます。はっきり、きっぱり、教えてやれよチャーリー。
「ああ、すまんすまん。あれな、オトナ専用の遊園地みたいなもんや」
「遊園地の外に遊園地、ですか」

「せや。デートの後、
いやーん、まだかえりたくなーい。いっしょにいたいのーん。
つう、カップルは沢山おるやろ?」
ちなみに、『いやーん』以降の部分、振りつきです。

「そりゃ高級ホテルにお泊りできたら一番なんやけど、彼女の門限やら、財布の事情やらでそうもいかないもんや。
そこで、ご登場なのが、お城さまさまってな。
ま、ホテルや、ホテル。
ご休憩二時間から。延長は三十分ずつ!もちろん、お泊りも可能やで」
いや、地域によっては三時間からだ。

「でも、さっき、遊園地と……」

「中にカラオケあったり、テレビゲームあったり、サウナあったり、いろいろや。
もちろんベッドもある。あ、風呂もあるで」
つうか、その二つがメインだ。
「中で何するかは、当人たちの自由やけど。まあ、九割九分決まってるやろな」
だろうな。

「どや?」
ティムカ、深く頷きました。理解、できたようです。よかったね。
「ご利用の予定があるんなら、事前にカノジョ誘う台詞、考えとき」
チャーリー、親切なんだか、余計なお世話なんだか。

「答えにくいこと答えてくださってありがとうございます」
ティムカ、故郷の礼儀にのっとった、いちばん丁寧な姿勢で、ぺこりと頭を下げてる。
「いやいや、頼りにしてもろて。なんや、弟できたみたいやな〜。嬉しいで〜」
聖獣の聖地、炎と水は円満のようです。

「ところで」
「なんや?」
「ひとつ、どうしても納得行かないんですが」
「はあ」

「なんで、お城の形なんですか?」


それは、きっと ―― 永遠の謎。 


―― オシマイ
◇ Web拍手をする ◇

◇ 「虚無の本棚」へ ◇

チャーリー!いいひとだ!

何気にほとんどオールキャラ。
そして『聖獣聖地タイムズ2号』が発行されていることになっている。
って、匿名かい。しかも、3号の餌食になりそうだし。

『コウノトリ』ネタで、ルヴァ探偵微妙にカムバック<ほんとかよ