きれいなお城


休日の夕方。セレスティア。
仲良さげなカップルが行き交う中に、どことなく目立つカップル発見。
ティムカとアンジェリーク・コレット。
執務がお休みの日に、お忍びでデートのようです。
お忍びなのになんだか目立ってるのは、ああ、ティムカ、執務服のまんまだよ。それでいいのか。
コレット、何か言ってやってよ。あなたはせっかく普通の少女風にしてるのに。
それでも精一杯のおめかししているあたりが、乙女心だねえ。可愛いねえ。
でも、アンジェリークの、彼を見る目がうっとりしているから、そうか、その衣装がお気に入りなのか。
気持ちはわかる。とても。
以下、コレット独白音声も、同時中継でお伝えします。

◇◆◇◆◇

ああ、やっぱり、目立ってるわよね。
でも、その執務服も、似合ってて好きなの。
執務中だとみとれてるわけにもいかないから、じっくり眺めることができて嬉しいかな。
私は流石に女王なカッコでくるわけにもいかないけど。
そもそも、重いし。あれ。あの羽根、背中に背負うの大変なのよ。
以前、神鳥の女王陛下のお姿見て、たいへんだろうなーっては思ってたけど、まさか自分が背負うとは思ってなかったわ。実際。
でも、ドレスとしては、色っぽい方よね?
そういえば以前、脱がしやすそうですねって、囁かれちゃったわ。きゃっ。


ふーん、そんな台詞吐くのか。
どんなシチュエーションだったのか、激しく気になるけど、まあ、次ぎいくか。

もちろん、以前の故郷の服も好きだったな。
ただ、やっぱり黒髪は外に出すのがベストよ!
そうね、私服姿も見てみたいな。


私服は、やめとけ、庶民っぽすぎてユニクロかとおもったよ。
黒髪が外ベストなのは、もう、当然。

ああ、でもいつまでこうやって、こっそり(?)会わなきゃいけないのかな。
だって、みんなだってもうほとんど気付いているのに。
せっかく首座の守護聖がちゃらんぽらん前衛的で、神鳥みたいに石頭厳格じゃないから、オープンにしても問題ないと思うのになあ。
そういうところで、この人も結構石頭よね。
真面目すぎて融通きかないって言うか。
へんなところで悩んじゃうって言うか。


そう、微妙にジュリアスとキャラがかぶる。苦悩系。

でも、そう言うところも、すごく好きなんだけど。
うふ。


そうそう、そういうところが(以下略)
コレット、頭の中で実にいろんなことを考えている模様。
そうこうするうちに、ふたりはセレスティアの出口へ到着。
どうやら健全なデートな様子です。
でも、ふたりとも、ちょっと切なそうな表情。
デートは帰り際が一番切ないんだよね。心中、察して余りある。

ああ、もう終わりか。
一緒に聖地には帰れないから、いつもここでさよなら。
だから、夜も遅くなれないから、必然的にデートも夕方まで。
寂しいし、切ないし、ずっと一緒にいたいって思うし。
純粋な心の方の気持ちももちろんあるんだけど。
はっきりいって。
はっきりいちゃって。
体のほうももっと一緒にいたいって言っちゃってしかたがないんですけど。


なかなか大胆な発言、飛び出しました。
次ぎ行きましょ、次。

そりゃね、私だって、経験がなかったらこんなふうには感じなかったと思うの。
でも、ほら、このアルカディアに閉じ込められちゃった時とか、そのあとまだセレスティアができる前に約束の地で待合わせしたときとか。
そのあとあなたが守護聖として聖地に来て、ちょっとした幸運な偶然があったときとか。とかとか。
あなたに優しく開拓されて。
こんなふうに体が疼くことがありうるなんてことも知っちゃった。


なんだ、清いお付き合いのまんまかと思ってたけど、なんだかんだいってけっこう回数こなし(以下略)
いや、でもそれが正しい姿だと思うよ。実際。

でも、今思うと私がはじめてのときも、彼絶対はじめてじゃなかったわよね。
それをどうこう言うつもりもないし、むしろありがたいくらいなんだけど、あまりにも経験豊かそうで。
なんだか、大変だったのねえって思っちゃう。
そうよね、元王様だもんね。


当時独身とはいえ、世襲制である限りお世継ぎ問題はついてまわったろうしな。

ああ、それはともかく。
この欲求不満をどうしてくれましょう。
さっき森の湖でちょっといい雰囲気になったけど、冬に外はツライわよ。
そんなわけで、結局なにもナシ。
それにあそこはたまに、エンジュも誰かと来てるみたいだから。
誰と一緒にきてるのかしら。
まあ、ティムカじゃなければ、誰でもいいわ。


正直だな。
レオかゼフェルあたりだと見てるが、どうだ?

ふつーのデートメッカなら、近くにラブホ街があったりするわよね。
普通。
でも、ここって、そいうのはなさそう。
きちんとした高級ホテルならあるけど。


そうそう、だいたいあるよね。ラブホ街。
事前に何処にあるか、チェックしとくといいの。
んで、野郎はデート後半、どうやって誘い込むか台詞考えるのに精一杯なんだよね。
意味なく近くの道を散歩したり。
女からも誘いたいんだけど、言っていいものやら、悩むわけよ。
って、あれ。
彼が歩みを止めましたよ?

「あれ、あそこ、この間まで工事中でしたよね。何かが、新しくできたみたいですよ」

げげげ。
ついにできちゃいましたか。若いカップルに、非常に高い需要を見込めると見た。
しかし、ベタなお城ですか。

「お城 …… みたいに見えますけど、セレスティアの中の、古城みたいなものでしょうか?」

ちょっとまってください、それ、素ですカ。

いやーん、ついにできたのね。すごく嬉しい。
でも、ちょっと、まって、彼のこの台詞。もしかして、素?
ああ、確かに考えてみれば、知らなくても無理ないのか。
歳の割に大人びていろんな知識も、経験も豊富でたよりになるけれど。
やはり王様だったわけで、いわゆる庶民の生活の常識が抜けてる可能性はとっても大きい。
ましてや、ラブホの形態なんて。
せっかくできたんだから、どうにかして有効活用したいのはやまやまだけど……。
その利用法を、どう説明したものかしら……。
ところで、いきなりできたけど建築基準法ちゃんと守ってるのかしら?
今度来た時横にパチンコ屋なんかあったら泣くわよ。


パチンコ屋なんかができた末には、あんたんところの首座の守護聖が入り浸ります。
きっと。

「どう、しましたか?考え込んでしまって」
「え、ああ、なんでもないの。それよりも、あのお城、気になる?」
「まあ、そうですね。なんだか、あそこにあるのは不自然な雰囲気をかもし出してますよね。なんなんでしょう。あなたは、ご存知なのですか?」

不自然つうか、自然つうか、微妙だよね。

「ええと、その。知らないことはないんだけど、なんていうか、説明しずらいかなって……」
「そう、なんですか? それなら、戻ったら、誰か知ってそうな人に聞いて ―― 」
「ちょ、ちょっとまってください!それはだめです!ティムカ様!」

コレット、慌てまくってます。
言葉遣いが、昔に戻ってます。当人、気付いていませんが。

だ、だめです。絶対ダメです。誰かに聞くなんて。
ああ、でも、そう、誰かマトモに答えてくれそうな人はいないかしら?
レオナード。却下。速攻で、却下。
ある意味適任だけど、余計なことまで吹き込みそう、っていうか、このふたり仲悪いからヘンなところでからかいのネタを提供することはないわ。
フランシス。うーん、知ってそうだけど、お耽美な比喩でよくわかんないうちに答えをかわされそう。
ユーイ。問題外。彼に相談を持ちかけたら最後、でかい声でみんなに聞いてまわっちゃうわ。
そういう意味ではメルも同じ。しかも最悪、向うの聖地でマルセル様あたりを巻き込んで聞き込みしそう。
マルセル様を巻き込めば、必然的にゼフェル様とランディ様にも伝わるわね。
あのおふたりは知ってるだろうケド、照れて的確な回答ができないわ、きっと。
照れて的確な回答がないのは、きっとルヴァ様も同じ。
意外とジュリアス様もそうかしら?っていうか、そもそもそんな空恐ろしいこと!
クラヴィス様は ―― 意外と、いけるかも。ただ、そこまでに会話を持っていくのが不可能に近いし。
ああ、年中組みのお三方は、頼りになりそう。
でも彼はリュミエール様になんだかドリーム持ってるみたいだから、答えを聞いた後、聞いた自分に自己嫌悪するかも。
オスカー様はやっぱり余計なことまで教えそうだし。それにやっぱり坊やだなとか言われちゃったらそれはそれで落ち込んじゃう。
あっ、オリヴィエ様なんか、適任じゃない?
ただ、こんなくだらないことであちらの聖地を巻き込めないっ!
じゃ、じゃあ、こっちの聖地で一番年上のヴィクトール?
きっとダメ、訳わかんないうちに説教になった末に体を鍛えろとかってロードワークはじめちゃうわ。
エルンストも照れ系か、ヘタすると建築基準法に引っかかるとか言って、撤去求めてきそう。それは避けなきゃ。
セイランはなんだか、嫌味を言うだけ言って結局肝心な回答はくれなさそうだし。
あっ。
いた!
ひとり!
救世主!


「…… 戻ったら、チャーリーさんに聞いてください ……」

◇◆◇◆◇

さて、次の休日セレスティア。
仲むつまじく手をつなぐふたりの姿が、今日も見受けられますな。

「ああ、そうそうアンジェリーク、例のお城ですけど」
「は、はいっ」

コレット、慌てています。
対照的にまったくいつもとかわらないティムカ、にっこりと笑って。

「今日は、早めに切り上げて、帰りに寄っていきましょうね」

―― 16歳、元王様、脱帽です。


―― オシマイ。

◇ Web拍手をする ◇

◇ 「彩雲の本棚」へ ◇


超・シリアスを書くと、ギャグ神様が降りてくる法則、健在。
(なお、ここでの超シリアスとは、12月末に発表予定のティム×コレ短編です。お楽しみにv <宣伝)

さて、これを彩雲に置いたのは正しかったのでしょうか……? 虚無行き?

2004.11.20 佳月拝