鵺の啼く夜〜夜話三集〜

第1夜 ――――兆し


 

 

森の湖

月のない静かな夜に、遥か昔を想い出す。

長い、長い…気の遠くなるような時を経て

再び彩やかに蘇える遠い、記憶…

 

 

 

 

一度は確かにこの腕にいだきながらも

まるで儚い夢、幻のように指先からこぼれおちていった

あたたかな、金色の、ひかり…。

 

ひとたび光を知ったこの心に、再び訪れた闇はあまりに深い。

いっそ光など手にしなければ

今これほどまでに闇の深さを感じずにすんだのだろうか?

…それでも、惹かれずにはいられなかった。

この闇がどこまでもすきとおっている限り、けして恐れはしないと

僅かなためらいさえなしに言った天使。

その天使をこの腕に留めておけるのならば

この宇宙などどうなってもいいと思うほどに…。

 

それでも少しずつ

かわりゆく想いがあるのも確かだ

孤独と思っていたこの長い時間

彼女もまた高みでひとり孤独と戦う

 

しかし、本当に我らは孤独であったろうか?

 

すくなくとも

我らは共に

この宇宙の中で共に…

 

身を貫く痛みは薄れ

その中に感情という名の胡蝶を閉じ込めて

想いはいつしか闇に結晶する琥珀となる。

 

なのに何故

 

今宵は彩やか過ぎるほど彩やかに幻影がこの身に飛来するのか?

そして締め付ける痛みが身を襲うのか?

 

それは、兆し

 

ひとすじ流れた星の先に

たったいま生まれた新しいひとつの命

いずれこの地に訪れる、輝ける魂の持ち主。

その存在を

いま彼が知るべくもない。

 

そして

すべてをいだく白き翼を蝕みながら

宇宙は音も無く、けれど確実に崩壊へと向かう。

まるで聖地に生きる人々を嘲笑うかのように。

 

滅びるのなら、滅びてしまえばいい。

宇宙よ…おまえがこの私に与えた闇の力

―――死と破滅と

すべてを闇に絡め取り

この長すぎる生命の終焉の時と為せ。

 

その言葉が聞こえたとでも言うのか

 

whoooo――――

 

どこかで鵺が悲しく啼いた。

 

 

第二夜―――予感

彩雲の本棚