眠り姫

プロローグ) 理想の男性像




わたくしがまだ女王候補だった頃のこと。
その日、寮のわたくしの部屋であのコと二人、大陸の育成についての調べ物をしていると、唐突に彼女が聞いてきたのだ。

―― ねえ、ロザリアの好きな男性のタイプってどんな人?

いきなり何を言い出すのかと思ってわたくしは呆れて言った。

―― あんたねえ、今大切な試験中ってわかっていて?

あのコは当然とばかりに肩をすくめて微笑んだ。

―― もちろんよ。でね、私だったらね、心から想ってくれる人がいいなぁ。

『もちろんよ』と言いながら、結局話題を変えないのだから、呆れるを通り越して感心してしまう。
そして、『心から想ってくれる人』などと言いながら、彼女の心の中には既にある人の像が鮮やかに映し出されているであろうことをわたくしは知っていた。
そう、だから、結局はつられて返答をしようとしながらも躊躇ったのだ。
わたくしの理想の男性は言葉にするなら ―― 容姿端麗で気高い男性 ―― そう、思っていた。
でも、その言葉を頭で紡ぎながら、やはり一人の男性の姿が心に像を結ぶ。
初めてその姿を目にしたときに。
こんなに美しい男性がいるのかと息を呑んだ。
そしてその司る力そのままにどこまでも。
誇り高いひと。

その姿が。
目の前の友人の心に映し出されたそれと同じであることを。
そして、あの方の眼差しの向く先が自分ではないことを。
やはり、わたくしは知っていたのだ。
だから結局こう言うしかなかった。

―― そうね、嫌いな男性のタイプでしたら挙げられてよ。粗暴で品の無い男性が大嫌い。

その後。
試験は終わりあのコが女王となって私はその補佐官となった。

互いに想いあいながら。
女王と守護聖という立場になった二人の心中を時折痛みとともに考えずにはいられない。
その痛みは。
想い人が傍にありながら遠くわかたれた友を思いやっての痛みなのか。
熱き想いを心に秘めつつ、その誇り高さと責任感ゆえに、露ほども感情の揺らぎを見せぬその人の心を偲ぶが故の痛みなのか。
それとも、それでも感じる彼らの絆に、決して満たされぬと知っている己が想いから来る痛みなのか。
いったい何を原因としているのか私は判断することができない。

いずれにせよ。
あの頃の想い出は、懐かしいと言い切ってしまうには、まだわたくしには鮮やかすぎるのだ。

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ひとりごと。
2月頃から書く、書く、といって延期されていた話をやっとはじめました。
正直、どのくらいの長さになるのか現時点では想像つかない^^;;
多分、1話が短めで全5話くらいだとはおもうのだけど。