Au clair de la lune 〜月映え〜





◇◆◇◆◇

月の光のもとで、私は大きな扉の前に立ち、
扉の向こうにいる、あなたに呼びかけました。

「こんな時間に申し訳ありません。
ですが、どうしてもあなたに伝えたい事があるのです。」


宮殿の奥深く。

女王しか入れない、女王の為の私室。

扉は、女王を守る盾。

女王以外の全てを遮断する盾。

そこに近づくことすら許されないのに、
私がこれからしようとしているのは・・・。

      最大の禁忌。

分かっていても、私は私を止められない・・・。


暫くして、私の声にこたえるように、
扉の向こうで人の動く気配がする。

あなたが私の傍にいる。

それだけで胸が高鳴る。

「守護聖拝命の日。私は幾年ぶりかにあなたに会いました。
あなたを見た瞬間・・・私の中でずっとせき止めていた想いが、
一気に溢れ出したのです。」

謁見の間で、微笑んだあなたの顔を思い出す。

あの笑顔は守護聖である私に向けたもの。

けれど、私は自惚れたい。


あなたの瞳の奥に、私と同じ愛しさが宿っていたと、自惚れたい。


「ずっと愛していました。あなたの事を・・・。」


扉の向こうで、あなたが私の名を呼びました。

言ってはいけないと咎めるような。

言って欲しいと願うような。

そんな声で、私の名前を呼ぶあなた。


「想いを口に出したくても、時は意地悪で、
私はあなたの隣にずっといる事はできないから、
この想いを諦めていました。
ずっと・・・胸に秘めていました。」


女王試験の時も。

レヴィアスと戦った時も。

アルカディアの危機の時も。

もしも、想いが通じても、
離れ離れになる運命。
互いに背負う使命。

運命と使命からは、逃げられない。


「けれど・・・
私はまたあなたの前にいる。」


私の使命が無くなったわけではないけれど、
あなたととても近い使命を負い、
その使命は、あなたの傍にいても良いと言う。

なら・・・もう、諦めない。


「あなたはこんなにも近くにいる。
私の想いを受け入れてくれませんか?」


扉の向こうで、あなたの息遣いが聞こえる。 耳に聞こえるのではなく、
心に響く息遣い。

同じリズムで呼吸するあなたを思い浮かべる。

その呼吸の乱れは、きっと私と同じ想いだからです。

「私とあなたの距離はあと、扉一枚なのです。」


私にここを開ける権利は無いから。

決めるのは、至高の存在であるあなただから。

私はこれ以上あなたに近づけないから。

「どうか、扉を開けてくれませんか?
月明かりのもとであなたに会いたいのです。」

扉に何かが触れる音がする。

ドアノブに手が伸ばされた音。

恐れや、戸惑い。
きっとそんな感情があなたの中に渦巻いている。

そんなあなたの感情を慰めたくて、癒したくて、
私は言葉を続けます。


「どうか、扉を開けてくれませんか?
アンジェリーク。私はあなたの事を愛しています。」


カチャリ。
扉が開く音がする。
月明かりの元で見るあなたは、

栗色の髪の愛らしい少女は、

私が見たあなたの中で一番美しかった。


私は目を細めて、あなたの姿を目に焼き付けた。

あなたの腕をそっと掴み、引寄せて、胸に閉じ込める。


「月の光のもとでだけは、
女王も、守護聖も関係ないと・・・決めませんか?」


あなたは小さく頷いて、私の背に腕を回す。

互いに微笑んで、くちづけて。


そして、


月の光を背に浴びて、


私たちは扉を閉めた。




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