クラヴィス様の非凡な休日:前編


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「今、なんと …… 言った、か?」

聖地の休日、今日は晴天。でも天気なんかわかんない薄暗い執務室の中。
部屋の暗さに良く似合う、ひっそりとのどの奥で呟くような声でクラヴィスが聞き直した。
彼は、聞き間違いだと思いたかったのだ。
けれども、赤い瞳が印象的なおさげ髪の少女から聞き間違えようのないはきはきとした声が返される。

「やだなぁ、聞いてなかったんですか?ラブラブフラッシュをお願いしたいんです」

休日だから本当は仕事はできない。だから確かに彼女がたずねてきた時点でクラヴィスはそう言ったけれども。
もしかしたらこれは、拝受をお願いされたほうがなんぼかマシかもしれないような発言である。
ジュリアスを喜ばせそうで気に食わないけど休日勤務だって進んでやっちゃうかも、くらいの心持ちで、彼は深く深く眉の根を寄せた。

ちなみに今日は11月11日。
ポッキーの日でもなければ、一部で証言のあった鮭の日でもない。
正真正銘クラヴィス様の誕生日である。
お誕生日に、誰かお祝いしてくれるかなーなんて思って執務室にいたわけじゃ断じてない、断じてないんだけど、なんとなーく休日なのに宮殿まで出向いてきちゃったクラヴィス。
でもこれはおとなしく館でぐーたらしてたほうが良かったのか。

「何故」

私がそんなことをしなければならないのだという意図をこめて、低く呟くと彼女はだから、ともう一度説明しだした。
なんでも、彼女の親友にして占い師のネネが、これまた元占い師にして今は聖獣の夢の守護聖であるメルにお熱で。
なんだけれども何の因果か彼らの相性は最悪らしい。
本来なら自分のために、自分でラブラブフラッシュをかけちゃいところなのだけれども、そこは哀しい掟があって。
『自分のために自分を含めたおまじないをしてはいけない』
ということらしい。
ちなみに。
メルも実はネネにお熱なんだけれど、同じ理由で自分を含めたラブラブフラッシュはかけられないのだ。
っていうか、なんだ、相性も何も既にお互いに想いあってるんじゃんか。って突っ込みいれたいのは筆者とてやまやまなんだけれども。
ここは内気でもじもじな、メルとネネ。
周囲がイライラするくらいに物事が進まなくて、それでも今日はやっと念願の初デート。
エンジュとしては、折角だからうまくいって欲しい。
相性の悪い二人がへんなところで喧嘩したり、気まずくなったりするのは忍びない、ということで、ひらめいたのが、クラヴィスのこと、というわけだ。占いができて、水晶球持ってるんなら、きっとラブラブフラッシュだってできちゃうに違いない!という、そんな考えの元に。
「それで私が …… なの、か?」
恥ずかしくてあえて『ラブラブフラッシュ』は省略したらしい。
エンジュは気にせずにこりと笑って頷いた。

「ええ、ラブラブフラッシュなんです。あ、クラッシュではないですから。あしからず」

クラヴィスはひそやかながらに深い深いため息をつく。
嫌がらせかとも思いたいが、目の前の娘は至極真剣で、悪意などこれっぽっちも持っていないから困るのだ。
そもそも、この娘とは絶望的に相性が悪い。
蠍座でA型のクラヴィスに対し、獅子座でAB型のエンジュ。
初期相性なんと19。クラヴィスとの初期相性サイアクの守護聖って実は相性20のオスカーなんだけれど、それより悪い。
その相性の悪さ故の出来事が今最悪の形で目の前で起きているような感じだ。

で、しばらくは絶望的な気分で彼女を無視しようと努力したんだけれど。
ざんねんならが、ガッツがとりえのエンジュ、あきらめそうにも無い。そうこうするうちに彼女の熱意に押されたというか、どちらかというとあれだね。
クラヴィス様、めんどくさくなってきちゃったわけよ。
だかここは恥を忍んで一言言えばいいや、と。腹を括った。
で。
水晶急に向かって。

「ら、ラブラブフラ〜ッシュ ……」 (←塩沢声)

少しエンジュは不満顔。
「なーんか、いまいちだなぁ。あ、ほら、ラブラブフラッシュの前の口上がないですよ、口上が」
って、あれか?
○○の心、○○に届け!っていうやつ?
そこまでやらせるか、エンジュ恐るべし。
クラヴィス様も、ここまできてしまったら後には引けない。仕方なく。
やっちゃった。

「…… ネネの心、メルに …… 届け、ら、ラブラブフラ〜ッシュ ……」(←しつこいけど、塩沢声)

うわー。
すげー、効き目なさそう。
というか、相性下がりそうな気が激しくしますが。
でもエンジュは至極ご満悦な表情で、よっしゃ、これで準備はおわった!とガッツポーズ。
そして。
「じゃあ、これからふたりの様子がどんなか見に、一緒にセレスティアまで行きましょう!」
と。
言うが早いかクラヴィスの腕をむんずとつかんで、有無を言わさず引っ張り出す。
流石にクラヴィスもこれには唖然として、抵抗するタイミングを逃してしまった。
それでも引きずられながら、ちょっと抵抗してみる。

「何故、私が ……」

エンジュは、当然じゃないですか。とあっけらかんと笑う。
「効き目があったかどうか、確認しなきゃ。クラヴィス様だって責任もって見届けてくださいね」

かくして。
赤い服を来た164cmの少女(剛力)に引きずられてゆく190cm黒髪ずるずる服の大男。
向った先のセレスティア。いったい何が起こるのか!



…… 盛り上げるだけ盛り上げておいて。
―― 続く。 (ゴメン…)

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ツブヤキ:
10万HIT記念リクエストラリー第三弾。
「クラさま絡みであれば、何でも」
「セレスティア巡りをして、エンジュに振り回されるクラヴィス」
でございます。
…っていうか。ゴメン…。誕生日に間に合わなさそうなので一回切りました…

2005.11.11