星に願いを

5.挿話 ―― ティムカとユーイ



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レオナードとの会話をある意味中途半端に終わらせて、ティムカは自分の執務室へ向かう。すると入り口の扉に寄りかかってユーイが待っており、ティムカに向かい快活に笑った。

「仲良くなったみたいで安心したぞ」

見ていたんですか、とティムカは苦笑する。
「仲良く、にはほど遠いとは思いますがね」
「そんな嫌そうな顔するなよ」
「冗談ですよ」
口を尖らせる友人に、にこりと笑顔を返してからティムカは続けた。
「でも、彼と仲が悪い人など私以外にもいるではないですか。ユーイ、あなたが殊更気にするようなことではないと思うのですが。気にするならほら、あなたの、もう反対側の隣の執務室の方など、どうなんですか?」
わかってないなぁ、とユーイは言って、頭の上で手を組んだ。
「レオナードの奴は他にも仲悪いやつがいるけれど、もういいオトナなんだからさ、気にする必要なんかないぞ。ただ、オレが気にしてるのはオマエの方だ」
眉をひそめたティムカにはかまわず、ユーイはきっぱりすっぱり続ける。
「オマエは、向こうの聖地でもこっちの聖地でも、誰とでもそれなりには仲良くできる奴だろ。なのに、レオナード一人だけ苦手みたいだったしさ、この間の会議で爆発してたから心配してたんだ。まあ、不満を抱えたまま表面は何も無いように振舞ってしまうよりはずっといいと、オレは思うけどさ」

『心配してたんだ』

こんな風に。
誤魔化しもぼやかしもせず、いつも真っ直ぐに本題を投げかけてくる友人。ティムカは、こういうところには敵わないと思いつつも、嬉しく感じている。
だから、ティムカも無理に己を作ったりせず、正直に友人に答えた。

「そうですね。私と彼とはあまりに違いすぎて、敬遠してしまうのだと思います。だからこそ、今日は思い切って話してみてよかった」
ユーイもまた嬉しそうな表情で、そうかよかったな、などと応じてからふと、真面目な顔になる。
「あのな、ティムカ。この世の中同じ人間なんて誰一人いないぞ」
「確かに、そうではありますが」
「オレとオマエだって、まったく違う人間だ。だけど、オレはオマエを友達だと思ってるぞ。オマエは違うのか?」
国にいた頃、信頼できる者達は多くいたが、彼らは自分を友というよりは寧ろ主としてみていたことを、ティムカは知っている。
だから、故国に心半ば残したままやって来たこの場所で、思いがけず得たこの出会いに、ひどく感謝もしていた。

「いいえ、違いません。あなたは、僕の ―― 稀有なる友人です」

ユーイの言うとおり、誰もが違う人間だ。
だから、違いすぎて敬遠してしまうなどと言うのは、ただの言い訳なのだろう。似たような立場であったり、似たような考えであったり、そんな人間が身近にいたとしても、人は必ずしもその相手を本当の意味で理解などできるはずが無い。
決して交じり合わぬ、それぞれの道の上で。
それでも存在する縁というもの、育まれてゆく絆というもの。

―― それを、大切にすればいい。

一人得心して、ティムカは友人に声をかける。

「三時頃になったら、お茶にきませんか?先日、神鳥の補佐官殿のお茶会に呼ばれた際、美味しいお菓子を頂いたのです」
「おっ、なんだ?」
にっこり笑って、ティムカは言う。

「激辛煎餅と、スパイスクッキーを」

もちろん、ティムカには何の悪意も無い。
ただ、三時にお茶に来たユーイが疑いなく煎餅にかぶりつき、あまりの辛さに
「これ、なんかの罰ゲームか?」
そうぼやくのは、数時間後の話である。

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