故国へ還る日

エピローグ) くちづけ小道




物語は、少し過去へと戻る。

白亜の王宮で真実を手に入れた私たちは、その翌日、ふたたびくちづけ小道へと訪れていた。
先日私たちに話し掛けてくれたご婦人が朗らかに笑いかけてくれる。

「おや、また来てくれたのかい?この間はくちづけをしそびれていたろう。
なんとなく気になってたのさ」
快活に笑って、観光はいつまでかと言う。

「いえ、もう観光では。この星で、暮らすことに決めたので」

はっきりと答えた彼に、ご婦人は嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、故郷の星に、帰ってきたんだね。この間も思ったけれど、その黥をしているところを見るとやっぱりこの星のお人だろう? 古めかしい風習で、いまじゃぁ大人になると取っちまう人も多いけどさ。
あれさね、その黥にはご両親の想いがこもってる。
大切におしよ」

「―― はい」

言葉を心に刻むように頷いてから、ゆっくりと、頭を下げる彼。
「この星で暮らすんだね。そりゃあいい。さあさ、何度でもその美人の奥さんとくちづけを交わしてどうか幸せになっておくれ。 この星で暮らす人々の幸せこそが、この星そのものの幸せなんだから」

ご婦人はそこまでいって、お邪魔しちゃあいけないね、と笑いながら家へと入っていった。

ふたり残された小道で。
私があなたをみつめる。
あなたが、私をみつめる。

そして、私たちはくちづけを交わした。

小道を通り過ぎる風に運ばれた潮騒が。
私たちにやさしく囁きかける。
そう、

おかえりなさい、と。


―― 終

◇ Web拍手をする ◇

◇ 「あとがき&ネタバレ解説」へ ◇ 
◇ 「故国へ還る日」目次へ ◇
◇ 「彩雲の本棚」へ ◇