ルヴァ教授の事件簿1

赤い花、白い花

(おまけ)ゼフェル危うし



アンジェの館でのお茶会はまあ、和やかに行われている。
一連の話をし終わった後、少々失礼して、とティムカは別のテーブルへと移動した。
ま、野暮は言わねーよ。ソッチのテーブルにロザリアいるもんな。
俺はティムカから土産だと言って渡された激辛せんべいをかじりながら奴を見送った。
しかし、ティムカの奴、このせんべいどっから手に入れたんだ?
貰っといて文句言って何だけど、二袋くらいあれば存分に食えたのに。
今度、どうやって入手したのか聞いてみようか。

「あーあ、私、全然気付かなかったですよ」

エンジュがちょっと悔しそうでありながら、さっぱりした顔でぼやいた。
俺は笑って
「まあ、おまえがボケかまして気付かなかったのが、効をそうして、あいつが決心できたからいいんじゃねえの」
とフォローしたつもりだったのだけど。
「フォローになってません、それ」
と、ツッコミみ返された。
クリスもそうだけど、この兄妹はボケてるわりにけっこう、突っ込みが厳しい。

「お兄ちゃんに、なんだか美味しいところもってかれた気がするのもちょっと悔しいし」

そのくらいカンベンしてやれや。
おかわりの紅茶をエンジュのカップに注ぎながら、アンジェもくすくす笑ってる。
ひどく和やかで穏やかな午後だった。
リュミエールがハープの演奏をし始めて、なんだか昼寝でもしたくなってくる。
幾つかのカップル ―― ジュリアスとコレット、エルンストとレイチェル、そしてティムカとロザリア ―― がダンスを踊り始め、そして他のテーブルでは、マルセルとメルとユーイがなんだかアホな会話して、セイランに突っ込み入れられてる。
俺らのテーブルの方にはフランシスのヤローがやってきて、エンジュをダンスに誘った。

「レディ、一曲 …… よろしければ ……」

うがっ!!
俺、こいつのこういう、なんつうかなよっとした態度、鳥肌が立ってしかたねーんすけど。
(作者註:ふたりの初期親密度 34)

それに対して、エンジュ。
「結構です」
ばっさり。
…… やべえ、今、俺、フランシスにちょっと同情した。
まあ、でもよく言った、エンジュ。
クリスに『妹に変な虫つかないように見張っといて』と言われている俺としてはこの展開は喜ぶべきことだ。うん。
しかし、この場合、変な虫じゃない奴って誰が当てはまるんだろう。
ろくな奴、いねえぞ。

さて、しょんぼりしてるフランシスをちょっと可愛そうといった風情で見やってから、アンジェが俺に言った。
「ねえ、ゼフェル、私たちも踊らない?」

か、勘弁してくれ。
「俺にダンスが踊れるわけねーだろ、アホ」
いつもなら、そんな俺の悪態をさらりとかわすアンジェなんだけど、今日はなんだか反応がいつもと違う。
「ふーん」
と、ちょっとむくれた顔をして、じゃあふられた者同士、フランシス如何?とかって。
おい、何だそりゃ!
フランシスはさっきの衝撃からちょっとだけ立ち直ったみたいで、しかも、俺のほうを見やってから、
「それでは … レディ、お手を」
とか言ってる。
すげー、むかつくんですけど。
で、アンジェはフランシスにエスコートされて向うへ行ってしまった。
アンジェの奴一瞬、俺のほうを見たとおもったら、思いっきりあっかんべーをして。

「あーあ、ゼフェル様、ピーンチ」
エンジュがまたもや突っ込みやがった。うるせえ。
「ところで、実はご相談があって。最近、お兄ちゃんから変なメール行きませんでした?」
むくれてる俺にエンジュがすこし声をひそめて話し掛てくる。
た、確かに、なんだか意味の通じないメールが何通か来たけれど。
でも、頼むから、そんなに近づくな。
アンジェが睨んでる!
慌てまくる俺に気付いているのか、いないのか、エンジュはさらにひそひそ話をしようとしてか、顔を近づけてくる。

アンジェが睨んでるって!
フランシスも睨んでるって!

「ああ、やっぱりお兄ちゃん、ゼフェル様にメールしちゃったんですね?」
エンジュはひどく真剣な顔で、んで、ちょっと顔を赤らめて、俺のほうを見てる。
その目が潤んでたりしてて。
おい、ちょっと、カンベンしてくれよ …… 。


俺を人生最大の危機に突き落として、このシーンは唐突に、終わる。
って、マジかよ!


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