聖獣の宇宙にも無事九人の守護聖がそろってしばらくたったこの日。
なかなか会うこともない奴等との親睦をふかめようってな意図から、我が婚約者にして、神鳥の有能な補佐官であるアンジェの奴がお茶会の計画を立てた。
気になるお茶会のメンツは。
全員は流石に多くて集められなかったわけだが、向うの宇宙の陛下と補佐官と、エトワール、それに多分お茶好きそうな守護聖数名 …… 例外もいる。
こちらの宇宙からは、陛下と、やっぱりお茶好きなリュミエールとマルセル。
そして何故か ―― ジュリアス。
いや、何故かってのは間違ってるか。
俺は頼まれるままにテーブルクロスを広げつつ、その上にいそいそと花瓶などを設置してお茶会の準備を続けるアンジェに俺は話し掛けた。
「おめー、このメンツ仕組んだな。お節介」
アンジェはふわりと微笑んで。
「あら、お節介はゼフェルも同じでしょ?」
ええと、それは、以前のルヴァやクラヴィスの仕掛けのことを言っているのか?
ちょっと照れて俺は悪態ついてごまかす。
「ジュリアスのツラ見ながらじゃ、おちおち茶も飲めねぇよ」
アンジェはそんな俺を、さらりとかわす。
「あら、あなたはお客じゃなくて、私と同じ招待側。お茶飲んでいるヒマもないくらい働いてもらうから、安心して」
「うげー」
そして俺がその笑顔に抵抗できないのを知ってかしらずか、にっこりと笑って。
「さあ、手が空いているのなら、テーブルに飾る花を摘んで頂戴」
「人使い荒れえぞ、テメー」
意に介さずといった風情で、彼女は俺に花切り鋏を手渡した。
「ほら、文句言わない!」
仕方なく俺はテラスから降りて、庭で聖地の風にゆれて咲く花を摘んでいく。
花の名前なんぞわからないから、適当に。
赤に白に、青に、紫。
背中から、声がかかった。
「鳳仙花、入れておいてね」
「おう」
花の名前はさっぱりだけど、ホウセンカくらい俺にだってわかる。
この庭でも今その花は盛りで、赤やピンクが主だけど、白や黄色をつけるやつもある。
まあ、結構綺麗な花だよな。
でも、花よりもその実の方が面白くて俺は好きだ。
触れるとはじけとぶそれが楽しくて、ガキの頃はけっこう遊んだりした。
「ホウセンカ、か」
そうか、この花はあの時の種を、アンジェが撒いたのか。
俺はとある事件を思い起こす。
それは、アルカディアで起きた事件。
今はもういないルヴァ探偵が活躍した事件。
―― だからこれは、ルヴァ探偵の回想録だ。
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