ルヴァの安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)シリーズ・その3

闇の守護聖隠し子騒動

(第2話)青少年、反省


激しい脱力感からとりあえず復活を果たした俺は、先ほどクラヴィスの館の裏庭で目撃したことをルヴァに話した。
言葉の裏に、あいつが父親なんだろうか、だから母親がなんかの理由で預けていったじゃなかろうか、という疑問を隠して。
俺が暗に言っている疑問に、ルヴァも気が付いたようだった。
「思い込みは良くありません。正しい答えを導く妨げになりますよ」
奴は、少し真面目な顔で話し出した。

「そうですねえ、あの赤ちゃんは生後一週間といったところでしたね。王立総合病院のロゴのついた産着を着ていました。あそこから退院したばかりでしょう」
よく見てんな。相変わらず。

「ですから、えー、そのー、あの」
こほん、とルヴァは咳払いした。
「あの赤ちゃんがですね、おかあさんの体内に生命を与えられたのはだいたい9ヶ月ほどまえ、ということになるんです」
なかなか微妙な表現しやがるな。
「……十月十日っていうじゃねえか。計算、あわなくねぇか?」
へんなことは知ってるんですねぇ、というルヴァ。
コウノトリ野郎が何を言う。
「計算の仕方、というのは、えー、そのー、あの」
奴はまた口篭って顔を赤くしたり青くしたりしてる。
「わかった、わかったから」
俺は奴がかわいそうになって言った。
「細かいことはヒマな時自分で調べる。9ヶ月なんだな?」(← 青少年よ、いいサイトを紹介してやろう ココ)
「そ、そう。9ヶ月前。……そのころ、ゼフェル。私たちは、何処にいましたか?」

俺ははっとする。
―― アルカディア
そうだ、そうじゃないか。俺たちは閉じ込められて――
「そう、私たちはあの地から出ることが出来なかった。115日間もの間」
まあ、多少のずれがあることもあるだろうから、微妙っちゃ微妙だけど。(← 突っ込むな)

「クラヴィスだって、わかっているんですよ。
赤ちゃんが何かの手違いであの場所に来たことを。
けれど、もしも。
本当にただ捨てられたのだとしたら。
手違いでなかったなら。
心当たりがないからこそ、その時のことを考えて、彼はあえて何も言わないのだと思います」

いつもの穏やかな笑みの無い、真剣な表情のルヴァに俺は少々気まずくなる。
「悪かったよ …… 考えなしで騒ごうとして」
俺は反省した。
それを聞いて、ルヴァは真面目な表情を崩した。
「いいえ。でも、悪かったと思うのなら。そうですね、ひと働き、してもらいましょうか。まずは」
奴はいつもの通り、にっこりと笑った。

「順序だてて、ゆっくり考えてみましょう。たいていの『謎』というものは、そうすれば謎ではなくなってしまうものです」

そうだ、あの赤ん坊がいったいなぜあそこにいたのか。
その『謎』はまだまったく解決していない。

「まずは、情報収集ですね」
ルヴァは俺にデータウィンドゥの新着ニュースを見せた。
それは、午前中俺が確認したものとほぼ同じ。
王立研究所から逃げ出した動物を無事全部捕獲したことだけが追記されていた。
ルヴァは王立研究所にパンダはいませんねぇ、残念ですねぇ。そんなことを呟いた。

奴は何か、考えをめぐらせているようだった。

そして、思い出したように言う。
「先日テレビでですね、とある惑星の、臥龍パンダ研究センターの特集をしてましてね」
なんか、話がずれているような。
「それ、関係ある話か?」
聞いた俺にルヴァは、順番は大切ですよ、と言った。
確かに昔の事件の時も、関係ないような話が鍵だったしな。
俺は納得して話を合わせる。
「テレビ、なんか見るんだ」
本ばっか読んでそうな気がする。
「あー、普段は見ないのですけどね。好きなんですよ。ぱんだ。あのもこもこ具合とか。それで、つい」
やつは滔々と話し出した。

「その研究所で、ふたごのね、赤ちゃんが生まれたんです。ぱんだの。
でもお母さんは片方しか育てられなくて。
特に人間に育てられていると育児が上手に行かないことが多いようですね。
野生ですら双子の場合、どちらかは死んでしまうらしいです。
(↑日本の白浜の梅梅母さんは肝っ玉なので二匹同時に育てているぞ ココ)
そこで、かたっぽをですね、人間が育てるんですよ。
でもいつかは母親に、そして野生に返さなければいけない。
なのでね、ある程度そだったら、お母さんのところへ戻すんです。
でも赤ちゃんが泣くんですよ。
泣くというか、呼び声なんですね。あれは。
それまで育ててくれていた、人間の飼育員さんにむかって、泣くんです。
でもその呼び声を聞いてね、本当のお母さんがその赤ちゃんを抱き上げるんですよ。
それは、それは大切そうに」

そこまで話して、奴は一息つく。
「かわいいですねー。ぱんだは」
なんか、うっとりしている。
おい、大丈夫か。
「そんなに好きなら、いつか飼育係にでもなったらどうだよ」
言ったことを後悔した。
ルヴァが更にうっとりとなんかを想像しているのだ。(← ( ̄▽ ̄*) こんな感じ)
「おーい、もどってこーい」
遠い世界へ意識だけ旅立ってしまった奴を引き戻すために声をかける。
そうか、そうんなにパンダが好きだったのか。
今度、パンダ型メカでもつくってやるよ。
名前は『パンダーZ』で決まりだな。(← 毛がもこもこじゃないと萌えないんだってば)

っていうか、話ずれてるって、マジで。

その後。
俺は遠い世界から戻ってきたルヴァの推論を聞き、王立派遣軍治安課、王立研究所、王立総合病院をかけずりまわって情報をあつめ、推論が事実に近かったことを確認した。
ばらばらだったパズルのピースが組み合わさり、一つの回答を導き出す。
いいかげんあちこち走り回って疲れたけど、ヘンな想像した罪滅ぼしだ。
最後に俺は、クラヴィスの館へと向った。

◇◆◇◆◇


(天司さん画。画像クリックで大きいサイズ)



俺がクラヴィスの館についたとき、奴は無表情で赤ん坊をあやしながらミルクをのましてた。
すげえ光景なんだけども。
―― 反省中につき、とりあえず、突っ込みはナシ。
い、いや、やっぱ突っ込みさせろ。
―― 頭ンなかで。
(↑ 口にする勇気はないらしい)

館の人に頼むとか、せめてリュミエールに頼むとか……。(← いくらリュミとて一緒かと)
無表情で赤ん坊をあやすな!(← 笑ってたらそれはそれで怖いかと)
うわ、ちゃんとげっぷさせてるよ。(← 青少年よ、君も良く知ってたな)
しばらく言葉もだせずにそこに突っ立ってると、クラヴィスが呟いた。

「母親というものは……これほどまに簡単に子を手放せるものなのか」

たぶん、それは俺に聞いたというよりも、独り言に近かったのだと思う。
そして奴はちょっぴり、自分のおふくろさんのことを思い出していたのかもしれない。
さっきまでの俺は、『謎』の答えを知らなかったわけだし、女の気持ちなんてわかんねえ。
でも。
「全部が全部どうかはわからねえよ。でもその赤ん坊のお袋さんは、そんなこと無いと思うぜ。それに、赤ん坊をここに連れてきたお袋さんも」

―― そう、手放せないからこそ、大切に想うからこそ、今回の事件が起こった

俺はルヴァに頼まれて調べたことをクラヴィスに伝えた。
「そうか」
奴は ―― 笑った。
微かだけど、笑みを零した。
言葉はそっけなかったけど、その笑みを見て。
こいつ、存外いい奴かも。
伊達にルヴァと仲いいわけじゃねえんだな。
そんなことを思った。
「水晶球で調べようとかって思わなかったのか?」
以前鬼火を、流星と言い切ったこいつ。
本気で調べようと思えば、今の俺と同じ答えを導き出せたろうに。
「あれは悪戯におぼろげな印象を映し出すのみ。このような時役に立たぬ。それに」

―― あれは母からもらったものだ。

「そっか」
ルヴァの言ったとおりなんだろう。
『もしもあの赤ちゃんが、本当に捨てられたのだとしたら』
こいつはそれを気にした。
だから、おふくろさんから貰ったもので、それを調べる気にはならなかったんだ。
きっと。


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